第60章 すれ違いのあとで
お風呂から上がり部屋に戻ろうとした時、廊下の灯りの下に裕介さんの姿があった。
「…ちょっと、いいか?」
いつもより少し低い声に心臓が跳ねた。
裕介さんが引いてくれている手はなんだか少し強引でいつもの裕介さんとは異なってみえる。
道中はお互い無言でそんなに遠くは無いはずなのにとても長い道のりに感じた。
旅館の裏手にある湖の滸に到着すると近くにあったベンチに腰掛け裕介さんが小さな声で話を始める。
「さっきの…真波の話、どう言うことショ」
責めるわけではなく確かめるような目。
嘘はつけないし、何よりつきたくないと思った。
「レースの後、尽八から表彰式の後ステージ脇にきて欲しいってメールが来てたから行った。それで尽八からここまでこれたのは私のおかげでもあるってお礼を言われて…その後…抱きしめられた。それで私も…それに応えた。でも、その…恋愛感情があるハグでは無いと言うか…感謝のハグ…と言うか…言い訳に聞こえるかもしれないんですけど…」
口淀みながらも素直に伝えると裕介さんは少しだけ目を伏せて息をつく。
そして携帯を取り出しを私に見せた。
「これ、その時のショ?SNSに上がっちまってる。おそらく東堂のファンが撮ったんショ。」
そこに写っていたの私と尽八が抱きしめあっている姿だった。
そこには”東堂くんに彼女発覚!”とか”お似合いずぎる!”なんてコメントが連なっている。
「茉璃と東堂がそんな関係じゃないってのは俺が一番よく知ってるショ。だから疑っちゃいねェさ。お前らが裏切るわきゃねェんだ。でもこんなコメント見ちまったら、正直、嫉妬…するショ」
『嘘、知らなかった…』
裕介さんはこちらを見て優しく微笑み、私の頰にそっと手を添えた。
そしてその指先が優しく髪を撫で裕介さんの額が私の額に触れた。
「もう気にしてねェショ。だから…」
裕介さんは額を話すと私に向かって両手を広げる。
私はすぐにその広げられた両手の中へと飛び込んだ。
すると裕介さんはそんな私を力強く抱きしめてくれた。
『裕介さん、不安にさせて…ごめんなさい…しかも、こんな大事な時に』
裕介さんはさらに抱きしめている腕に力を込め軽く笑う。
その力強い腕に、伝わってくる鼓動に、胸の奥がじんと温かくなった。