第56章 小さな嫉妬(巻島目線)
母さんが出かけて、田所達が出て行き家の中が静かになった。
キッチンでは茉璃が袖をまくって先ほどまで使っていた皿を洗っている。
さっきまでのあの光景が頭から離れない。
母さんと笑いながら並んでお茶を出して、まるで昔からの家族のように馴染んでいた。
その自然な笑顔がなんかずるいぐらい可愛くて俺は少し嫉妬した。
俺は茉璃の細い腰に手を回しギュッと抱き寄せる。
急に背後から抱きしめられて茉璃はびっくりしたような声をあげる。
『ゆ、裕介さん、どうしました?』
また敬語だ。
思わず笑って茉璃の耳元で囁く。
「母さんにはタメ口で話すのに、なんで俺にはまだ敬語なんショ」
茉璃の肩がピクッと揺れて耳が少しだけ赤くなっているのがわかった。
可愛くて、もっとからかいたくなる。
「敬語、やめてほしいショ」
そう言った瞬間、自分の声がいつもより少しだけ低く響いた。
想像以上に真剣なトーンになっていたかもしれない。
茉璃は固まってしばらく沈黙が続いた。
その沈黙がなぜかくすぐったくて愛おしい。
『…え、今…ですか?』
「あぁ。今だ」
ゆっくり答えると茉璃の背中から伝わる鼓動が早くなったのが分かった。
そしてしばらくしてから小さな声が聞こえる。
『…わ、わかった。で、でも部活中はいつも通りだから…ね?』
その瞬間、胸の奥がじんと熱くなった。
彼女が前よりもっと俺に近づいてくれた気がしてたまらなく嬉しかった。