第55章 小さな嫉妬
「入って入って〜」
そう楽しそうに家に招き入れてくれたこの女性は裕介さんのお母さんだ。
近所のケーキ屋さんで裕介さんのご自宅に持って行手土産を選んでいたところばったり出くわしたのだ。
裕介さんのお母さんには私がくるということは伝わっていたらしく、それなら田所さん達のビデオ鑑賞が終わるまでお家でお茶でもしましょうとお誘いを頂いたのだ。
裕介さんのお母さんは家に着くとすぐさまキッチンへ入って行き楽しそうにティーカップを用意しようとしている。
『手伝います』
「あら、いいの?ありがとう」
私はお母さんの出してくれた茶葉でお茶を入れると、お母さんは鼻歌を歌いながら私の持ってきたケーキを取り出す。
「座って座って〜」
裕介さんのお母さんはなんとも楽しそうな表情だ。
「ねぇねぇ、裕介、ちゃんと彼氏できているかしら?」
椅子に座りお茶をいただいた瞬間に唐突な質問が飛んできて私はお茶を吹き出しそうになる。
『あ、えっと、はい!裕介さんすごく優しくて…』
顔が一気に赤くなっているのが自分でもわかる。
そんな私を裕介さんのお母さんはニコニコと見つめていた。
『ゆ、裕介さんのお母様はうちの母と仲が良いんですよね?』
私は誤魔化すように話題を変える。
「そうなのよ〜。今日もこの後一緒に習い事に行くの。」
『え、そうなんですね!母と仲良くしていただいてありがとうございます。ウチでもよく裕介さんのお母様のお話が出てくるんですよ』
「あら、そうなの?それは嬉しいわ。」
裕介さんのお母さんは終始ニコニコと楽しそうな顔をしている。
しかし一瞬なんだか少し考え込んだような顔をしてまたこちらに向き直る。
「茉璃ちゃん、私のことは”お母さん”とか”ママ”って読んでくれて構わないのよ」
『へ!?』
裕介さんのお母さんのトツゼンの提案に私は素っ頓狂な声が出てしまった。
「ほら、もう私は茉璃ちゃんのこと娘のように思っているから、そのほうが嬉しいわ。茉璃が嫌じゃなければそう呼んでくれるかしら?それに敬語もいらないわ。」
『え、えっと…はい、ありがとう。お母さん』
「うちは男2人で2人とも変り者でしょう?だから娘ができたみたいで嬉しいわ」
お母さんはとても嬉しそうにケーキを頬張った。
その後も私とお母さんはいろんな話をして盛り上がったのだった。
