第42章 噂と期待
『裕介さん、裏門坂のママチャリの噂とかって聞いたことあります?』
裕介さんの家で宿題を終わらせた私は一息つくと裕介さんに今日幹から聞いた小野田くんの話をしてみた。
「ママチャリ?全く知らねェショ」
『その小野田くん、ママチャリで裏門坂を足をつかずに登り切るらしいです』
私がそこまでいうと裕介さんはクハッと大きな声で笑い出した。
「クハッ!あり得ねェショ。ロード乗ってるってんならわかるがママチャリでってか?茉璃も知ってると思うがあそこは斜度20%以上の激坂だ。普通に考えりゃ無理な話ショ」
全く裕介さんのいう通りだとは思う。
私も今だに幹の言っていたことを信じ切れているわけではない。
でも…
『もし本当にいたとしたら…それで自転車競技部に入部してくれたとしたら…なんとなく、なんとなくなんですけど、その子クライマーなんじゃないかって、そんな気がするんです』
私の言葉に裕介さんは少し考えると
「そうなるといいな」
と言いながら軽く微笑んだ。