第35章 重いペダル
いつもの峰ヶ山。
あんなにいつも楽しかった登りなのに何故か足取りが重い。
それは裕介さんも同じだったようでいつもよりかなりローペースで峰ヶ山を登りきった。
山頂駐車場へ着くといつもの腰掛石へと腰を下ろす。
そして息を整えると裕介さんは重い口を開くように話し始めた。
「実はだな…まだ誰にも言ってないんだが…イギリスの大学からこの前合格通知が届いたショ」
一瞬裕介さんが何を言っているのか分からず固まる。
しかしそんな私をよそに裕介さんは言葉を続けた。
「イギリスにいる兄貴から仕事を手伝いながら向こうの大学に通わないかって言われててな。実は願書を送ってたショ」
そこまで言われても意味がわからず頭の中は混乱するばかり。
『えっと…イギリスってことは…入学は9月?』
「あぁ…」
『じゃあ…裕介さんは9月で部活も退部して、卒業前倒しでして…総北から…日本からいなくなっちゃうんですか…?』
「…」
頭をハンマーで殴られたような衝撃が私を襲う。
話を聞く前の嫌な予感は当たってしまったようだ。
そして私の頭の中には一つの疑問が浮かんだ。
『え、合格通知ってことは前々から話があって…色々な手続きとか、してたんですよね…?』
「あぁ…」
そう短く返事をする裕介さんはなんとも困惑したような、泣きそうなような表情を浮かべている。
そんな彼に私は悲しみやら怒りやら色々な感情が溢れ出た。
『な、んで…なんで今まで一言も…何も言ってくれなかったんですかっ…?』
下をむきボロボロと泣く私に裕介さんはただただ謝るばかり。
『今日は1人になりたいので先に戻りますね』
私は涙を拭い立ち上がると裕介さんの静止も聞かずにロードに跨り峰ヶ山を後にした。