第15章 王子の子守り・後編
任務を終えて一ヶ月ぶりに見る母船
漆黒の宇宙に浮かぶ船体に収容されると、大きな音と共にポッドが揺れた
この音と揺れで帰って来たことを実感できる
ポッドが所定の位置で止まるとハッチを開けて座席から腰を上げた
足も満足に伸ばせられない窮屈さから開放され、思い切り両腕を伸ばす
そのまま発着室を出ようとしたところでドアが開いて戦闘員が入って来た
自分を見ると何故か哀れむような表情を浮かべる
戦闘ジャケットが所々砕けているからだろうか
だが、こんな格好で帰ってくるのは珍しいことではない
どうしたのかと声を掛けようとしたところで向こうが先に口を開いた
「よお。あの話、聞いてるか?」
「あの話?」
「……なにも知らないのか」
「知らん。何かあったのか」
「まあ……見れば分かる。じゃあな、ナッパ」
そう言い、彼は軽く手を振りながら自分の横を通り抜けてポッドのほうへ歩いていく
ナッパは首を傾げてその姿を見送ると発着室から廊下に出た
フリーザへの報告はスカウターで既に済ませている
部屋に戻ってシャワーを浴びようと思い、居住区へと足を向けた
侵略中は運がよければ廃墟でシャワーを使えるが、大抵の場合は川での水浴びになってしまう
今日はゆっくり身体を温められると思い、自然と歩調が早まった
「おっと」
角を曲がろうとしたところで人とぶつかりそうになって立ち止まる
すると相手が顔を上げ、自分を見て口元を歪めた
「戻ったか、ナッパ」
「!?……ラディッツ。何だ、その顔は」
「ちょっとな。お前、これから風呂か?」
「ああ、そのつもりだが……」
「終わったら……そうだな、食堂に来い」
「食堂?」
「じゃあな。絶対に来いよ」
そう言い、ラディッツが色濃く痣の残る顔に笑みを浮かべて横をすり抜けて行く
彼の身体には他にも多数の殴打されたような跡が残っていた
任務に行ったにしては傷のつき方がおかしい
それに、先程からすれ違う戦闘員の大半が同じような怪我をしていた
自分が居ない間に母船で戦闘が行われていたのだろうか
「そうだったら……通信が入るよな。後でべジータに聞いてみるか……」
とにかく今はシャワーを浴びて身体の汚れを落としたい
ナッパは煤や埃でザラつくジャケットを軽く払うと自室へと急いだ