第2章 Re:birth
遠く、遠く。ひたすらに遠く。何処までも進み続ける。
太陽に照らされキラキラと光る白髪を全人類の7割が纏う在り来りな茶髪へと変えた。誰にも気づかれないように息を潜めてアタラキシア大陸を越えた。それは長く険しい旅路だった。
11歳の少女が1人で生きるには大変な世界だったが幸い彼女には力があった。
この年で移動しながら普通の仕事に就くことは難しかったため、窃盗や闇ギルドに加担を繰り返し身銭を作りながらただ進み続けた。ただ闇雲にアルバレス帝国から遠ざかる為に。
旅立つ頃は春だった気候も別の大陸だからか時が経ち過ぎたのかもう冬へ移り変わった頃。
彼女の身体は、精神はボロボロだった。
何が悲しくてこんな事続けてるんだろう…。何で歩き続けてるんだろう…。
人から騙し取ることで得たあぶく銭は冬の厳しさの前では一銭も残らなかった。遂に進み続けていた足は歩みを止める。
「うぉっと、すまん…」
「じーじ、落とすなよ」
コロコロとリンゴが彼女の足元へと転がる。ルビーの如く照り輝くリンゴは地面に転がり汚れていても尚美味しそうだ。そのリンゴに反射して自分の薄汚れた姿が目に入る。
限界だった。
「あ…ああ…。うわぁん…」
これまで出てこなかった何かが彼女の頬を伝いリンゴを濡らす。
何処にこれ程の水分があったのか。2,3日口に含んでいない水が体内から地面に落ちていく。勿体ないと思ったけれど、涙はそれでも止まらなかった。
リンゴを拾いに来た金髪の少年は涙に濡れたそのリンゴを拾い袖で軽く拭いたあと、彼女の口に押し付け泣き声をそれで塞いだ。
「やるよ。腹減ってんだろ」
押し付けられたリンゴを無我夢中で頬張った。それはとても甘いのに、とてもしょっぱかった。