第53章 私を忘れないで…
「紫苑、大丈夫かの…」
「平気です。きっと琴乃のごはん食べたら元気になりますから」
夜一の後ろから砕蜂が小さく姿を見せる
「紫苑……その、すまなかった」
紫苑は砕蜂と対峙した時のことを思い出した
「謝らないで…それが砕蜂さんの仕事なんだから、ね」
「仲直りじゃの」
さて、と…と夜一は来たときと同じように、紫苑を小脇に抱えた
「あ、もぅ!夜一さん!」
「じゃあ砕蜂、またの」
「夜一様!」
羨ましそうに見る砕蜂を横目に、夜一は走り始めた
…─
「そうなのか?!」
「そうそう!でねー、紫苑たらねー」
琴乃サンと黒崎サンは、なんだか意気投合したみたいであれからずっと話している
話題のほとんどは紫苑のこと
正直いい気はしない
ボクの知らない小さい頃の紫苑の情報なんかも、ベラベラ喋ってるし、気になって仕事に集中できない
「ねー、かわいいでしょー!それからね…」
…イライラする
早く帰ってこないっスかね…
夜一サンが着いていってくれたけど、やっぱりボクも行くべきだったか…
それよりも今朝、ちょっと様子がおかしかったから心配だ
「喜助ー!帰ったぞ」
夜一の声に喜助はいち早く反応し、勢いよく襖を開けた
目の前に立っていた紫苑と目が合ったかと思うと、紫苑はふわっとボクに倒れるように抱きついてきた
「お帰り。どうしたの?疲れた?」
優しく紫苑を抱き締めると、紫苑は数秒の間の後、小さな声でこう言った
「……お腹すいた」
そりゃそうだ
昨日から何も食べていない
そんな状態で良く頑張ったものだ