第1章 助けられたカラ松
「ひどい姿だな」
なぜこんな姿になったのか、思い出せない。思い出そうとすると頭が痛い。
夕方になる頃、○○が目を覚ました。
「起きたかい?○○ちゃん」
「ごめんなさい。私、寝ちゃってました」
「いいんだ。ずっと看病してくれてたんだろ?」
「誰かに聞いたんですか?」
「普通に話してくれて、かまわない。師長さんにね」
「そうなんですか。あ、そうなんだ」
そこへ夕飯が運び込まれた。お粥だった。
○○はベッドのレバーを動かし、上半身を起こす。
「ありがとう」
「はい、あーん」
「え!い、いいよ。自分で食べるから!」
「あーん」
カラ松は観念した。
「あーん」
「おいしい?」
「デリシャス!…え、なんだこれ…。俺、こんな言葉…?うう、頭が痛い…」
「無理しないで」
「いや、何か思い出しそうなんだ。…………あ」
顔をあげるカラ松。
「カラ松だ」
「え?」
「俺の名前は、カラ松だ。それ以上は、思い出せない」
「そう…。でも名前だけでもわかって、よかった」
「名字は…わからない」
「今はそれで、いいよ」
「でもどうして俺に、こんな献身的にしてくれるんだ?」
「放っておけないの。事故で弟を亡くしてしまったからかな。せめてあなたの記憶が戻るまでは、側にいさせて?」
「○○ちゃん…」
動く右手で○○の手を包む。
「大きな手…」
「○○ちゃんの手は、小さいな。でもこんな小さな手で、俺を支えてくれる。優しく包み込んでくれる。助けてくれたのが君でよかった」
「カラ松…」
ギプスも取れた頃、カラ松のリハビリが始まった。とはいっても元々体力も筋力もあるカラ松のこと、少し動いただけで元の感覚を取り戻した。
何度目かの脳検査も異常はなく、主治医からいつでも退院できるという報告があった。
「退院できるらしいけど、どこに住んでたかは思い出せないでしょ?」
「…うん」
「私の家に来る?」
「え、でも…。○○ちゃんにだって家庭があるのに…」
「ふふっ。家庭があったら、ずっといたりしないよ。一人暮らしだから、大丈夫」
「そ、そうか。なら、お言葉に甘えようかな」
「行くあてもないでしょ?」
「うん。お世話になります」