第1章 助けられたカラ松
数時間後、カラ松は赤塚病院に運び込まれていて、○○による献身的な看病がなされていた。
○○はこの病院の元看護師だった。自ら頼み込んで、カラ松に付きっきりで、いさせてもらっている。
「ひどい目に逢いましたね、かわいそうに。痛かったでしょう?でも、脳内出血にならずに、よかったですね。検査の結果も、異常はなかったし。」
カラ松の体を拭きながら、声をかけていた。何回も、そうしてきた。師長が来て、○○を気づかうくらいに。
「○○さん。少し休んだら?」
「いえ、私がこの人を助けたいんです。道で倒れてて、救急車が来る間も、誰も彼を探しに来る人はいませんでした。今も彼を訪ねて来る人は、いません。そんな人を放ってはおけません」
「…あなたも強情ね」
そんなある日。手を握ると、カラ松の温もりが伝わる。少し強めに握ると、握り返してきた。
「!!」
「……ん…」
カラ松が目を覚ました。
「ここは…。俺は、一体…」
「よかった!気がついたんですね!!」
コールボタンで意識が戻ったことを伝えると、担当医が来た。
「ご自分のお名前とか住んでる場所、分かりますか?」
「名前……住所……。え…あれ…?いって!」
「無理しないで!」
「思い出せない…!」
「いいんですよ。無理に思い出そうとしなくても」
「もう少し元気になったら、リハビリしましょう」
担当医が部屋を出ると、また二人きりになった。
「君は…?」
「○○です。あなたが道に倒れていたのを見つけて、救急車でこの病院に運び込んだんです」
「ありがとう、○○ちゃん。俺はどのくらい眠ってたんだ?」
それに対する返答はない。見れば○○は安心したからか、カラ松のベッドに突っ伏して眠っていた。
様子を見に師長が来て、カラ松に告げた。
「意識が戻ったんですね、よかった。3日は意識不明だったんですよ?その間ずっとこの子は眠らずに、看病していたんです」
「眠らずに…」
「毎日あなたの体を拭きながら、声をかけていたんですよ」
「そうだったんですか…」
カラ松の胸が、キュンとなった。
「ありがとう、○○ちゃん。本当にありがとう」
○○の頭を撫でようと思ったが、左腕はギプスで動かない。