第3章 新しい生活
私の名前はルシア。
彼ーージュダルにそう名乗った。
私はこことは恐らく違う世界の、地球にある日本という国に住んでいた日本人で、そこには魔法なんかなくて剣だって時代遅れのものだーーなんて言ってもきっと理解されない。というか、実際試しに言ってみたが「頭大丈夫?」と聞き返されてしまった。まったく失礼である。
まあ私が生粋の日本人ということは本当なので、当然、私は日本人らしい名前である。
彼に名前を聞いたら『ジュダル』と言った。
どう考えても日本の文化ではない名前だ。
だから私は《前》の世界の名前を名乗らなかった。適当に思いついた“それっぽい”名前を名乗った。
私はすでに、《この》世界で生きていくことを決めていた。
たぶん、《前》の世界に戻ることはできないだろうと何となく感じ取っていたのもある。
しかし、最大の理由として、《前》の世界に未練がほとんどなかったということがあった。
《前》の世界での生活が苦しかったわけではなかった。むしろ、恵まれていたと思っている。大切な家族も仲のよい友だちもいた。悩みがないわけではなかったが、充実していた。将来の夢もあった。やりたいと思っていることがたくさんあった。
それが、もう不思議なくらい、今の私にとって色褪せていた。
《前》の世界に執着はなかった。今、生きているのは《この》世界なのだ。
そして私はその異常性に気づかぬフリをして蓋をし、《この》世界で生きている。