第8章 戦場と臆病者
「何、あなた?気に食わないわねぇ……。私たちは化け物に襲われてた身内を助けただけよ?」
「違う!!ウーゴくんは、みんなを、僕を守るために戦っただけなんだ!先に手を出してきたのはその人だ!!」
それを聞いて私はなるほど、と思った。ジュダルは決して善人ではないし、なんというかもうイッちゃった系の戦闘狂だ(我ながら酷い言いようだが)。
少年の言っていることが正しいのだと思う。
先程から淡々と状況を見ているだけのような私だが、実際、ただの現実逃避だ。
殺し合いなんてテレビや本の中でしか見たことがない。心が追いつくはずがなかった。
「いかが致しますか、姫君」
「片付けるしかないわねぇ」
事態は、そんな私を置いて進んでいく。
「閻心、閻体、閻技、やっておしまい!!」
絨毯に同乗していたモノたちが紅玉の指示を受けて地上に降り立つ。
「この子は私が片付けるわぁ。そのゴミたちは三人で………皆殺しよ!!!」
三人により、人々が本当にゴミのように散っていく。私はそれをただ見つめることしかできなかった。
そこでふと紅玉が私の方に振り返った。
「放っててごめんなさいねぇ。月ちゃんも戦う?」
「私は……」
下はもう戦場になっていた。人々が化け物に怯え逃げ惑っている。
戦場は、命を失う場所でしかない。
「私は、いい。……私、弱いし」
私がそう言うと、そんなことないと思うけどねぇ、と言って紅玉自身も戦いに身を投じる。彼女は実に楽しそうだ。
私は怖かった。私は何も知らなかった。この世界では人の命が虫けらのように扱われることがあるのだ。
いや、それはどこの世界も同じだ。ただ、私の目につかなかっただけで。
私が、遠い世界のことと決めつけていただけで。
こんな戦い、本当はやめさせたかった。しかし今の私は煌帝国の人間であり、勝手なことはできない。しかも金属器を使わなければ、私は非力なただの人間だ。
いいや、そんなことは単なる言い訳だ。私はちらりとジュダルを見た。金属器はジュダルに使うなと言われているだけで使えないわけじゃない。
結局、怖かっただけなのだ。
何もかもが怖かった。戦場にいることが、友だちが戦っていることが、金属器を使うことで周りが変わることが、ーー何かをすることが。
臆病者は、見ていることしかできなかったのだ。
