第6章 皇子と皇女
「今から紅炎のとこ行くぞ」
「紅炎?」
「今の皇帝の長男。所謂皇太子ってやつだよ。次期皇帝の最有力候補」
「ハア!?」
いきなりの大物登場だ。いくら神官だからってえらい人を呼び捨てにしないでほしい。うっかり私も呼び捨てにしてしまったではないか。下手したら首が飛ぶ。もちろん私の。
「ちなみに迷宮攻略者。三人のジンを従える複数迷宮攻略者だ。紅炎はいいぜ、なんてったって強いからな!今の煌帝国では俺の一番のお気に入り」
アンタのお気に入りかどうかなんて聞いてないわ!と言いたいところだけれども、ますます大物感が増しただけだった。というか実際超大物。普通だったら一生関わりのないタイプの人間だ。今からそんな人物のところに行くのかと考えると胃がキリキリするような気がした。痛い。まさか皇太子様の前で男装を披露する羽目になるとは思わなかった。どうかバレませんように。
私の心境など考えもせず(だって神官様だもの)ジュダルはスタスタと歩いていく。私はそれに着いていくしかない。すれ違う人は一瞬私を訝しげに見るものの、何も言わずジュダルに礼をするだけだった。やはりジュダルはえらいらしい。
歩いていくほどに見かける人が少なくなっていく。中華風で煌びやかだった城内が、ここまで来ると重圧感を感じるほどの厳かな雰囲気で満ちていた。
その中でもずっしりとした扉の前でジュダルは止まった。ノックもせずに扉を開ける。
「紅炎、いるか?」
「ああ、入れ」
バリトンの声が部屋の中から聞こえた。ジュダルに続いて私も部屋に入る。部屋の中をきょろきょろと見回すのも失礼だと思ってあまり視線を動かすようなことはしなかったが、ぱっと見ただけでもとにかく書物が多い。恐らく執務室だろう。
その部屋の奥に、執務中だろう、書類を黙々と書く男がいた。赤い髪が印象的な男だ。美丈夫という言葉がよく似合う。無駄なく筋肉がついているが、思っていたよりも細身だった。一段落ついたのか顔を上げ、鋭い目がこちらを見た。
「お前が俺の所に来るのは珍しいな、神官殿」
「ああ、用があってな」
「用とは、そこの者のことか」