第8章 激動のパンフェスティバル
ギンの怪我は突然のアクシデントだったから、宿泊場所にまで気が回らなかったのは仕方がない。
だが、実際に泊まるとなれば仕方がないで済まされる話ではなくなる。
「ムギちゃん、俺と一緒に泊まる?」
「おい、殺されてェのか? 冗談は眉毛だけにしておけ。」
「あ? お前に聞いてねぇぞ、クソガキ。」
「やだー。ムギったら、まさかサンジさんと一緒のホテルに泊まるとか……言わないわよね?」
そんなこと言うはずもないのに、プリンの目が本気で怖い。
先ほどまでの達成感いっぱいの幸せはどこへいってしまったのか、瞬時に四面楚歌状態になる。
「今から別のホテルを予約すれば問題ないんじゃ……?」
ここは天下の軽井沢。
観光地として人気なこの地なら、宿泊難民になることはないだろう。
すると三つ目の悪鬼様が一変、天使の微笑みを浮かべる。
「あら、わかっているじゃない。ちょうどよかった、軽井沢には私の家族が経営しているホテルがあるの。融通が利くから、私とサンジさんはそこに泊まりましょ。」
「え……ッ」
そこは普通、プリンとムギではないのか。
ローとサンジが相部屋で宿泊とか想像できないが、それでも普通は同性がペアになるだろう。
「プリン先輩、あの――」
「なぁに、ムギ。異論があるの? うちのホテル、一番グレードが低い部屋でも5万はするけど。」
「あ、ないです。異論なんかこれっぽちも!」
5万円と聞いた瞬間、ムギの不満は天空の彼方へ飛んでいった。
よくよく考えてみれば、ローと相部屋なんて全然問題がない。
曲がりなりにも自分たちは付き合っているし、今だってムギの家にローは何度も泊まったことがある。
「じゃ、決定。いいわね? サンジさんが予約したホテルにはうちの車で連れていってあげるし、明日の朝は迎えにいってあげる。だ、だから、私のことは……あんたが乗せていきなさいよね!!」
と、後半は酷い顔でサンジに命じた。
ツンギレにも程がある。