第2章 とにかくパンが嫌い
「あれー、キャプテン。なんか今日は機嫌がいいね?」
教室に着いた途端、顔を覗き込んできたベポにそう言われた。
笑っているわけでもなく、鼻唄を歌っているわけでもないのに、幼馴染のクマはローの機嫌がわかるらしい。
「なにかいいことあったの?」
「……逆だ。ムカつくことばかりあった。」
「え、それなのになんで機嫌がいいんスか?」
「別によくない。」
そう、断じて良くない。
明日から貴重な朝のひと時を過ごす場所を失ってしまったし、女たちの行動になおさら嫌悪感が強まった。
不思議がるベポとペンギンを尻目に、無駄だと知りつつも尋ねてみた。
「お前ら、早朝から開いているカフェを知っているか?」
「え? 駅前のところ以外で?」
「あそこは使えなくなった。新しい場所を探している。」
「はあ、カフェ…ねぇ……。全然行かなすぎてまったく心当たりないッス。」
だろうな、とは思っていた。
女子と違って男は茶を飲みながらぺちゃくちゃお喋りをしない。
もちろん茶くらいは飲むが、早朝からオープンしている店限定で聞かれても、ぱっと答えが出てくるはずもなかった。
ベポも同じようで、うんうん唸りながら必死に記憶を探っていた。
「カフェ、カフェ、うーん……。あッ、カフェじゃないけど、商店街にあるパン屋さんはどう?」
「……パン屋?」
「そう、たまに母ちゃんが買う店だけど、イートインコーナーでお茶が飲めるって言ってたよ。あそこなら、朝早くからやってると思うし。」
「パンは嫌いだ。」
「いや、買わなきゃいいだけの話ッスよ。パン屋だからって、絶対パンを買わなきゃならねぇわけじゃないッスから。」
しかし、パン屋にはパン好きが集まるもの。
パンの匂いは嫌いというわけではないが、好んでパンを食べる人間の中に紛れて本を読むなど、なんだか胸焼けを起こしそうになる。
「まあ、一度行ってみたらどうッスか? 無理そうならやめればいいんだし。」
「……一理あるな。」
帰るのも居座るのも客の自由。
どのみち他に選択肢がなさそうで、とりあえず挑戦してみようかと考えた。