第6章 パン好き女子のご家庭事情
「それで、どうしたの? やけに楽しそうに見えたけど。」
不気味な笑みをレイジュに見られていたと知り、ムギは恥ずかしくも誇らしく頷いた。
「はい。今日は給料日じゃないですか! だからわたし、嬉しくて嬉しくて!」
「そういえば、給料日だったわね。なにか買いたいものでもあるの?」
「いえいえ、貯金ですよ。わたし、貯金額が増えていくのを見るのが、なによりも楽しみなんで!」
「そ、そう……。」
きらきら輝く笑みを向けられて、レイジュの顔は少々引き攣った。
ムギの趣味は、他人にはなかなか理解できないものらしい。
苦笑を浮かべていたレイジュだったが、ふと真面目な顔に戻って思案した。
「ムギちゃん、平日は毎日来てくれてるんだったかしら?」
「はい。平日と土曜日、週六日入らせてもらっています。レイジュさんとはあんまり一緒になりませんよね。」
「ええ、私は自由なシフトで入らせてもらっているから。」
私生活を大切にするレイジュは、ゼフやサンジと違ってシフトに入るのも変則的だ。
ちなみに、彼女はバラティエの二階には住んでおらず、都内の高層マンションに居を構えている。
なにやら副業をしているそうだが、あまり詳しい内容はムギも知らない。
「週六日……。朝と夕方も入っているのよね?」
「はい!」
「ね、ムギちゃん。それって、103万円超えちゃわない?」
「103万? やだな、レイジュさん。いくらわたしでも、そんなにたくさん稼げませんよ!」
節約に節約を重ね、ムギの貯金はようやく100万円に届きそうな頃合いだ。
103万円も一ヶ月に稼げたら、将来も安心なのに。
「あ、ううん、月収じゃなくて年収の話。ムギちゃん、もしかして103万円の壁を知らない?」
「103万円の壁……って、なんです? 」
「えーっと、簡単に言うと、扶養に入っている学生が年間103万円以上稼いだら、親の税金が高くなっちゃうのよ。だから、あんまり稼ぎすぎると損をしちゃうんだけど。」
「え……。」
「やだわ、サンジったら説明をしなかったのかしら。そもそも、あの子もオーナーも、お金や法律に強くないから。」
初耳だ、初耳すぎる。
年間103万円?
バラティエで働き始めて半年。
103万円など、とうに超えていた。