第6章 パン好き女子のご家庭事情
薬を飲みきり、晴れてバラティエに復帰したムギは、本当に、本当に上機嫌だった。
なぜなら、今日は給料日なのである。
昨日まで休んでしまったが、締め日まではけっこう頑張った。
今月の給料はきっと、にまにまする金額に違いない。
「ふ、ふふふ……。」
妄想が膨らんで不気味な笑みが漏れ出すと、近くにいた客がぎょっとして離れていった。
「ムギ、てめぇ! 給料日になるたびに気持ち悪ぃ笑いをすんのはやめろ! 客が逃げんだろうが!」
「あ、すみません。」
この件でゼフに怒鳴られるのは給料日が訪れるたび毎度のことなので、慣れたものである。
ひとまず笑みは引っ込めたが、それでも口もとがにやけるのを止められない。
「楽しそうね、ムギちゃん。」
「あ、レイジュさん! お疲れ様です。」
白のスーツをばっちり着こなす女性は、ヴィンスモーク・レイジュ。
サンジの姉であり、バラティエの三人目のパン職人。
レイジュは主に昼間の時間帯を担当しているため、朝から店で見かけるのは珍しく、時間帯のせいでムギとレイジュは平日はあまり顔を合わせられないでいた。
ムギが休んだ間はレイジュが代わりに働いただろうから、やり残した仕事でもあるのかもしれない。
「昨日まで迷惑を掛けてすみませんでした!」
「いいのよ、そんなこと。ムギちゃんにはいつも助けてもらってるんだから。それより、倒れた原因は過労とかじゃなかった? もしそうなら、容赦なく訴えてくれていいからね。」
「いやいや……。」
病院では確かに疲れが原因と言われたけれど、ムギは望んでシフトに入れてもらっている。
例え働きすぎなのだとしても、まったくの自己責任だ。
「あまり無理をしちゃダメよ? キツイ仕事は全部サンジに押しつけなさい。」
「いやいやいや……。」
サンジとレイジュの姉弟仲は悪くないものの、互いに当たりは強い。
レイジュはとても美人だけど、血縁があるせいか、唯一サンジがデレない女性でもある。