第20章 二人の過去《回想》
あの日はとても綺麗な満月の夜だった
そんな月明かりの元、まだ幼い未来は江戸の町を走りに走っていた
走り続けた足は疲労と師走特有の冷たさで、ほとんど感覚はない
切らした息は真っ白で、耳は冷えきりジンジンと痛い
「はあ…っ、はあ…っ、はあ…」
城下まで来たところで行くあてはない
だけどここまで一心不乱に走ってきたのだ
簡単に誰かに見つかるわけにはいかない
入り組んだ路地に身を隠すため立ち入ったところで、人の気配がする
そして、血の混ざった鉄の匂いが辺りに充満している…
ふと気づき視線を足元に落とすと、すぐそこには何人か息の途絶えた大人たちが地面に倒れている
こちらに背を向け佇む、血に濡れた銀髪の男の子の手には、背の高さに似合わない程の長い木刀が握られていた
不本意にも息をするのも忘れて見入ってしまった
幼いながらに、辺りの状況にギョッとするが、その彼をとても尊くとても儚く感じた
同時に、彼に気づかれずにここから離れないといけないと、幼いながらに本能で危機を感じた
それに反して震える体
ジャリッーー
「誰だ!」