第1章 拝啓赤き月へ
「よし、夕飯の準備完了」
お父さん、お母さん、今日の献立は夕飯の残り物。
寄せ集めチャーハンと、常備なの青菜と、お揚げさんの胡麻和えです。
自炊した夕飯を仏壇に供えた私は、心を落ち着かせて手を合わせる。
「今日も平穏に暮らせました。見守ってくれてありがとう」
「にゃー」
「ふふ。ルルもお父さんたちに今日のこと報告した?「
「にゃう?」
「よしよし、私たちもご飯にしようか…………あれルル?」
いつもなら天国の両親に挨拶をした後は、食卓に直行するのに。珍しく窓に向かって駆けて行った。
「どうしたの? 外に何かってすごい真っ赤な月。綺麗だけどなんか……なー」
(じっと見てると、吸い込まれちゃいそうな感じ)
「……」
「にゃあにゃあ」
はっとしてルルを見ると、窓ガラスに鼻をすり寄せている。
下に何かいるのかとベランダに出て下を見ると、着物を着た人が息を切らして膝に手をおいていた。
「えっ侍?」
その人にみゃあみゃあ泣くルルを抱き上げ、私は窓ガラスを閉めた。
「私、少し仮眠をしてから食べるから。ルル先食べてて」
(なんだろう? 急にものすごく眠い)
あの赤い月が瞼の裏側に残って離れない。
そして耳の奥で玄関の扉が無造作に開き、バタバタと廊下を走る音がした気がした。
「くっそ」
赤い月の気配とあの女性の異様な気配を強く感じ、疲れた足もかまわず走り出した。階段を二段飛ばしで駆け上がり、ドアを無造作に開き靴のままリビングに駆け込むと、気絶するように眠る部屋の主を見て肝を冷やす。
「おい、起きろ! このままだとまずいぞ」
急いでスマホにある連絡先をタップして耳に当てる。
少しのコール時間ですら煩わしい。
呼び出しコールが止み、真面目そうな用魔の声がして口を開き要件を言おうと、息を吸うが突然急な眠気が襲ってくる。
「は……あ」
もう立ってもいられず床に身体が倒れ込む前に、スマホのGPSをオンにした。
ドスッと音とスマホが転がる音に電話の向こうで、焦り気味に声を張り上げる。その声はスマホから漏れ出ていた。
「おい、相良どうした! おい、相良!!」