第2章 美しい嘘つき
「まったく、授業のたびにこれだもんな」
呆れた様子でリオが言うその横で、葵はコップに手をかざし挑戦している。
この世界にいるうちはできるのかもと思っているのだろうがコップに顔を近づけてもアルコールの匂いはしない。
「……だめだ」
ガックリ。と肩を落としていると人だかりの騒ぎが落ち着いていた。
「フェン様、もう課題終わりましたのよ」
「私も」
「ごめん、ごめん。いつもより遅くなっちゃったかな。廊下で女の子とぶつかっちゃってね。足が痛むって言うんで介抱してたんだ」
わらわらと取り巻く生徒たちを突っ切って教壇にったつその人は
「はあ……さてと」
さらさら落ちてくる前髪をうるさそうに払う。
ふーと息をつくと物憂げな視線で教室を見渡した。
「みんな良い子で自習してた?」
「…………!」
「あれ、葵ちゃんに横で机と仲良くしてるのは、天月ちゃんかな?」
みんながうっとりと溜息をこぼすなか、さっそく目が合ってしまいつい顔を伏せてしまう葵。
彼が近づいてくる気配に助けを求めるように、俯きながら自習を続けているリオを見る。
「リオ……」
「ん?なんだ?」
「この方が、リオに話しあるみたい」
「えっ!?」
「ほら、識語は禁止!」
「…………!」
「なーんてね♪」
リオとの間にステッキを差し込まれ、はっと顔を上げた。
バッチリ目が合ったまま動けなくなる。
笑顔で何かしてくるのかと思えば彼は、葵のコップに視線を落とす。
小さく唸りステッキを操ったかと思うと、コップは中に浮き、コップは彼の胸のあたりで止まる。
「ん……」
水を人差し指で撫でてから巣食うと、バターやクリームを舐めるように口に入れた。
「なるほど、.…魔法をかけようとした痕跡があるね。けどアルコール成分0。Cランクの中でも最下位レベルか……、それに横の子はまったく手をつけてないみたいだし。これは教えがいがあるね。そうだ講義の後3人で居残り練習」
「………!」
「この講義中にお酒に変えれるように頑張ってみて」
彼はコップを戻して教団へ戻っていく。しかも、何事もなかったかのように講義を始めた彼の姿を見ながら葵は首をかしげる。
「お前、トアだけじゃなくフェンとも知り合いなのか?」
「え、あ、うん。まあ……」
かなり曖昧に答えながら横にいる天月をみるが、彼女は眠り落ちていた。