第2章 美しい嘘つき
「で、ここが教室」
ガチャリ、と開いた扉の隙間から広い室内が見えた。
大学で目にするような普通の教室で、生徒たちは席に着き何か黙々と作業している。ただし、いたるところに置かれた、奇妙な色の液体の入ったグラスが目につく。
「どーこ座るかな、あっ天月葵こっちだ」
「う、うん」
「……」
「みんなにも紹介しないとな。
こいつらは今日から新しく転入してきた子たちだ「
みんなは作業の手を止め私たちを見る。
天月はその視線から逃れるようにそっぽを向いた。
「えっあ、よろしくお願いします」
座る前に葵は頭を下げるその横で、心なしか突き刺さる視線に溜息を吐く。
「基本的に座る場所は決まってないから、空いてるところに座るんだ」
「そうなんだ」
「この初級魔法の授業はいつもスタートが遅れるから、先生が来るまで自習だからな。ほらこれ」
リオは、目の前に透明な液体の入ったコップを置く。
「水を酒に変える魔法」
「…………は、はい!?」
2人は同時に声を上げた。
その声にまた生徒たちの視線が集まった。
周囲をよく見ると他の生徒たちは当然のように、コップに手をかざしている。
彼らは相変わらずチラチラと値踏みする視線を送ってきていた。
葵はそんな視線から逃げるように、リオに顔を近づけ話し出す。
「あの、コツとかあるのかな?」
「え……」
「そうなりますよねー」
「どういうことだ?そのくらいの魔法なら誰でも使えるぞ」
さも当然だというリオを睨み付けると、葵が宥めるように言葉を紡ぐ。
「普通にってどうやるの。全くわかんないから教えてよ」
「落ち着いて」
「え…え、普通にイメージすればいいだけだけど」
「天月ちゃん落ち着いて、普通にだって普通」
「今の聞いた?水の状態変化魔法ができないんですって」
「あんな質問、赤ちゃんみたい」
笑い声やひそひそ話が周りから聞こえてくる。
嫌な気配を横から感じた葵は、右横にいる彼女を見ると今にも女子生徒たちを殺しにかかりそうな顔をしている。
「ねえ、あいつら殴っても罪に問われないよね?
「落ち着いて!どうどう」
天月をなだめていると教室後方の扉が開き、みんなの注目が一瞬に移った。
「キャー!いらしたわ」
「モデア様!」
女子生徒の黄色い声と男子生徒の嬉しそうな声に、みるみる顔色を悪くさせる。