第14章 大和夢(新人女優)
緊張した八乙女さんのキスシーンも、八乙女さんが上手くリードしてくれて、一発オーケーだった。
撮影は夜遅く終わった。
千さん行きつけのダイニングバーの個室。
オーガニック野菜がふんだんに使われた、美味しい料理。
「じゃあ、お疲れ、様乾杯」
「明日も撮影あるから、お酒はほどほどにね」
「八乙女さん、今日ありがとうございました!キスシーンほんと緊張してたんで…」
「ああ、ガチガチに緊張してるの、スゲーわかった」
「へー、キスシーン僕みれなかったんだけど、大和くん、みた?」
「ええ、まあ。見てました。」
正直、緊張した理由の半分は、二階堂さんに見られていたってのもある。
ドキッとしながら、隣にいる二階堂さんを見つめた。
クイッと眼鏡を持ち上げ、よかったんじゃないですか…ってぼそっと呟いた。
クックッと千さんが、笑いをこらえ、
オンエア楽しみだねと、綺麗な声で言う。
隣の席で、以前のように手を繋がれるんじゃないか、とドキドキしてたけど、期待は空振り、全然そんなことはなく、三人は楽しく談笑している。
あまり強くないけれど、ごまかすようにお酒をクイッと飲むと、すぐにほろ酔いになり、いい気分だった。
隣の二階堂さんの手が触れ、思わず自分から手を繋いで、テーブルの下に潜り込ませた。
微かに、二階堂さんの瞳孔が開いた気がしたけれど、変わらず八乙女さんと楽しく話している。
(お、思わず手を繋いでしまった…!)
自分でもどうしていいかわからず、躊躇していると、繋いだ手をぎゅっ、と二階堂さんが握り返してくる。
ドキドキして、思わず顔をふせた。
「どうした、来夢、顔赤い。酔ったか?」
心配そうに八乙女さんが、私に声をかける。
「あ、は、はい…」
「ん、じゃあ明日もあることだし、そろそろお開きにしようか。大和くん、彼女送ってて。楽くん僕と帰ろう」
「え?…はい」
しょうがない、という感じで二階堂さんは、答えた。
「二階堂、頼んだぞ」
千さんが、八乙女さんを連れて店を出る。
去り際、アイコンタクトで、ウィンクされて、少し驚いた。