第13章 妖万華鏡の楽紡
「しかし、なかなかみつからないな…明日で約束の日だが…」
「…で、ですよね……これ以上は…」
うるうると言葉を詰まらせる。
すると、英は紡の頭をぽんぽんと撫で、
「俺もできるだけの事は、する。そう落ち込むな。…な?」
ぽろっとこぼれ落ちた一粒の涙を、指で拭った。
「英さん、なんでそんなに優しいんですか…」
「優しい?俺が?」ははっと笑い、
「俺もさ、おふくろ大事にしてるから、家族を大事に思う気持ちには、弱いんだ、唯一な。」
「英さん、やっぱり優しいじゃないですか」
ふふっと、紡がふんわり笑う。
英は、その笑顔をいつまでも見てたいな、と思ったのだった。
ーー
翌日、街は大方探し終えた二人は、念のため森にも探しに入る。
「森には、きてないよな…」
「はい。御使いで道に迷っていたら、いつの間にかあのらーめん屋さんの前にいたので…」
「まあ、念のため…」
少し探し回った頃、ぽつん、と雨が頬にあたる。
「雨か、本降りになりそうだな…」
そう英がいい、ふりかえると、きゃあと紡が足を踏み外し、ずるりと滑り落ちた。
「っ!大丈夫か、紡」
「いたっ…だ、大丈夫です」
英がすぐに、駆け寄る。
「ああ、挫いてるな、雨もふってきたし雨宿りしよう」
「えっ」
ヒョイと紡をかつぎ上げ、近くにあった洞窟で、雨宿りをする。
「雨が止んだら、今日はもう詰所に戻ろう、それから、明日は、もとの場所におくりとどける。もう約束の日だ。」
「はい、英さん、今まで、ありがとうございました、明日帰ります私」
「探し物、俺が必ずいつかみつけてやる。案ずるな。」
「……ここでの記憶、消えるんですよね」
「…ああ」
「あげの入ったらーめんも、こんなに、親切にしてもらった英さんのことも、全部」
「ああ、それは規則だ。忘れたほうがお前のためでもある」
「……」
紡はすすっと、英のそばにより、こてんっと頭を英の肩に預ける。
「!」
「なんでだろう、かんざしよりも、ここでの事を忘れてしまうのが、さみしい……」
雨にかき消されそうな紡の声、思わず紡の肩を抱こうとして、寸前で手を止めた。明日になれば、彼女はもとの世界に戻るんだと、自分に言い聞かせ、込み上げた気持ちを沈めた。