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【FHQ】勇者の物語

第9章 王の射手


その声に、俺は聞き覚えがあった。

馬車の荷台の横に付いた1頭の馬に乗っていたのは、

「キノシタさん!!」

第2の故郷で世話になった人。

「その馬貸せ!」
「はあ!?」

言うが早いか、乗るが早いか。
カゲヤマは馬車からキノシタさんの馬へ飛び移った。

キノシタさんの馬は、驚き蹌踉めき嘶いた。

「何なんだ君は!!」
「とにかくワイバーンに出来るだけ近付け!」

カゲヤマの余裕のない声に、キノシタさんは何も言わずに従った。

馬車から離れて、畦道のない草原に馬を走らせる。

カゲヤマはキノシタさんの後ろで矢を番えて、かなり不安定な状態で流鏑馬を開始する。

俺はアオネさんに抱えられて馬車の荷台に戻る。
遅れてケンマも戻った。

窓からキノシタさんとカゲヤマを探していると、信じられない光景を視界に捉えた。
ワイバーンの両翼には数本も矢が刺さっていた。

「いつの間に!?」
「あれだけ遠かったら見えねぇか……」

手綱を握るイワイズミさんの残念そうな声が聞こえてきた。

「カゲヤマの、いや、“王の狩り”を、また見れないのか……」

また?

言葉に引っ掛かったが、俺が聞く前に決着はついた。

キノシタさんが走らせる馬上で、毅然と空を見上げるカゲヤマ。

空からは、ワイバーンが消滅していきながら降らせている、コインの雨。……当たったら痛そう。

イワイズミさんは馬車を徐々に減速させて、停止させた。
そこへ、キノシタさんとカゲヤマを乗せた馬が合流する。

2人の服のポケットやフードの中はコインばっかり。
だけど、俺はまたキノシタさんに会えたのが嬉しくって、キノシタさんに抱きついた。
コインがゴツゴツして痛いけど!痺れて痛いけど!

草原にばら撒かれたコインの回収は諦めて、偶然取れたものだけを纏めた。



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