• テキストサイズ

【FHQ】勇者の物語

第13章 再会


午前0時の貧民街は奇妙な声がたくさん聞こえて来た。
野良犬の遠吠えや野良猫の喧嘩する声だけでなく、誰かの喘ぐ声や泣き声や怒号。
路地に目を向ければ、虚な目をした女性と目が合ってしまった。思わず目を逸らすとクスクスと笑う声がする。

俺とアオネさんはカマサキさんの案内で、イズミンが住んでいる場所に向かっている。3人ともフード付きのマントを着て、顔と着ているものを隠す。

「ここだ」

カマサキさんが指差したのは、今にも崩れそうな小屋。錆びたトタンが何枚も重ねられてできただけの、とても人が住んでいるように見えない。それでも、内側から漏れる微かな光が「住宅」であることの証だ。

カマサキさんは周囲を素早く見回し、俺たちに背を向けた。

「俺はここで見張りをする。ヒナタ達だけで行ってこい」
「わかりました」

俺はトタンの壁を優しく叩く。それでも妙にその音が大きく聞こえた。
中でガタガタと音がして数秒後、トタンの板の内側から弱々しい声が返ってくる。

「ど、どちら、さま……?」
「ショウヨウだよ、イズミン。カマサキさんの案内で来た」

勢いよく板がずれて、痩せ細ったイズミンがいた。ぎょろぎょろとした目が大きく見開かれる。

「ほん……もの……」

俺はフードを取って頷いて見せた。アオネさんもフードを取る。
イズミンはまじまじと俺とアオネさんを交互に見ていたが、その奥にいるカマサキさんに気付いた。

「……あ」
「俺は気にすんな」

イズミンはカマサキさんにぺこりとお辞儀をして、俺とアオネさんを中に入れてくれた。

そこはとても狭くて、アオネさんは少し身をかがめないと天井に頭がぶつかる。
小さな掛けた皿に油が注がれて、浸されて紐の先に火が灯っている。この部屋の唯一の光源だ。

隙間風が吹く部屋で、粗く編まれた後座で寝ている子供がいた。イズミンより幼く見えるその子は、髪がほとんど抜け、骨が浮き出た焼け爛れた皮膚を掻き、苦しそうに咳をしていた。顔も爛れて右目が潰れている。

「イズミン、その子は?」

俺が尋ねると、イズミンは泣きそうな顔で子供の横に膝をついた。

「コージーだよ」


/ 130ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp