第13章 おとぎのくにの 5
仕事熱心なのはカズの良いところだけど、今日は頑張らなくていいのに。
いや、こんな時にカズを働かせちゃってるのも私なんだけど…
「カズも疲れてるでしょ?」
「………いいえ」
「うそだよ」
カズは否定するけど、疲れてない訳ない。
体が疲れてなくても心は疲弊してるでしょ。
私よりむしろカズの方が疲れてるはずだ。
でもカズは真っ白な顔で頑なに首を横に振る。
ブラシをぎゅっと握る手は震えていて。
「カズ…?」
「…………いつも通りにしたいんです」
ポツリと呟く声も震えていた。
「お願いです、サトさま…いつも通りにさせてください…」
それはもう懇願で。
本当はもう休ませてあげたいけれど、カズがいつも通りにしたいなら。その方が安心すると言うのなら。
好きにさせてあげるのが1番いいんだろう。
「じゃあ、お願い」
カズを説得することを諦めておとなしく鏡に向き直ると、カズは目に見えてホッとして。
ブラシを持ち直すと再び私の髪を梳かし始めた。
小さな手が器用に動いて、優しく丁寧に梳かれた髪がサラサラになっていく。
確かにいつもと変わらないことにとても安心する。
こうしてカズと2人で普段通りに過ごしていると、さっきのお母さまの話は全部夢だったんじゃないかと思えてくる。