第13章 おとぎのくにの 5
お兄さまと別れて部屋に入ったら、明かりは灯っているし、いつでも私が休めるよう準備も整っていたけど、そこには誰もいなかった。
たぶん私付きの侍女たちは皆お父さまに呼び出されて話を聞かれているんだと思う。
誰もいないなんて滅多にないことだけど、今は誰もいないことにホッとした。
私の世話を1人でしなければならないカズは、部屋に入るなりパタパタと動き回っていて。
とても忙しそうで申し訳ないけれど、私はカズと2人きりで良かったと思ってる。
今のこの状態で他の皆とどう接したらいいのか分からないから。
ボーっとカズにされるがままに任せていたら、あっという間に化粧が落とされ、ドレスも脱がされていて。
「湯浴みはどうされますか?」
そう聞かれたけど、首を横に振った。
「今日はいいや…」
お風呂が嫌いな訳じゃないけど、心が疲れ果ててる今はそんな気になれない。
「かしこまりました」
カズも断られると思っていたのかあっさり頷くと、手際よく寝衣を着せてくれて。
鏡台の前に私を座らせると、下ろした髪を丁寧に梳いてくれた。
これは私たちの毎晩の日課で。
気持ち良いし、大好きな時間ではあるんだけど。
鏡に映るカズの顔色はやっぱり良くなくて。
「今日は適当でいいよ?」
「そういう訳にはまいりません」
早く休ませてあげたくて切り上げようとしたけど、キッパリ断られてしまった。