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innocence

第1章 ガラスの箱庭


拝嶋郷未、22歳、大学4年生。と言っても進級したてだが、この時期にはもう同級生達は一様に企業内定に向け、本腰を入れ始める。ちなみに私は大学院へ進学予定だ。

講義が終わり、学生の群れがぞろぞろと出入口へ集う。
立ち上がった私の肩を、友人の七瀬ちゃんが軽く叩いてきた。
ふんわり巻いたミルクティー色の髪に、お人形さんのような長いまつ毛とすらっとした手足。5社ほど内定が決まったとのことで、黒髪から以前のような髪色に戻したのだ。

「さとちゃんっ!今日早いんだよね?お茶しに行こ〜!」
「あー、ごめーん……私夕方からどうしても外せない用事入っちゃったんだよね」
「えっ、なになに?」
のんびりとした調子で誘ってくる七瀬ちゃんに、本日の予定を語る。
「……お見合い」
七瀬ちゃんは3秒ほど固まった後、何度も深く頷き、「そうだよね」と零した。
「さとちゃん家はそういうお家柄だもんね……この大学だって、さとちゃんパパが多額の寄付金をくれるから、学費が安く済んでるとこあるし」

有名女子大と言えば聞こえはいいが、実際は託児所と変わらない。「子供」である私を大学に預け、託児料としてトランクいっぱいの寄付金を提供するだけの関係。
父は少し考えが古い。大学を卒業したら今度は専業主婦になって家庭を守れと言い出すだろう。
何不自由ない生活を約束するとは建前で、本当は私を目の届く場所に置いておきたいだけなのだ。
「合コンくらいしか男と会わない私が言うのもなんだけど、さとちゃんは嫌じゃないの?特に好きでもない、顔も見たことない男と結婚するかもしれないとか、あたしはちょっと無理だね」
「うーん……かといって私にはどうすることもできないから。それに、相手は全く知らないってわけじゃないの」
「え、そうなの?」
「うん。でも向こうはきっと覚えてないよ」

駐車場側からタイヤが砂利を踏みしめる音が聞こえてきた。
窓から覗き込むと、防弾仕様の高級車がお手本のような縦列駐車をしていた。
迎えが来たことを確認し、七瀬ちゃんと別れ、下りのエレベーターに乗り込む。扉は運転手が開けてくれたので、そのまま車に乗った。
席を一つ分空けた左端には、私の父_拝嶋グループ総帥・拝嶋倫和が座っていた。
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