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【黒執事】翡翠の少年【BL】

第2章  名門寄宿学校、ウェストン。


重たい荷物をやっとこさと馬車から持ち出す。一応筋力には自信はあるのだが、馬車に揺られて長い距離を移り、重い荷物を少し久々に持つ感覚は何ともいえない。大地に降り立つと生まれたての小鹿みたいに足がブルブル震えていた。

――今日からここで暮らすんだな

 脳裏で呟きながら、学び舎にしては派手すぎるのではと感じてしまうような校門をくぐった。赤、青、紫、緑色の色をした制服を着た生徒らしき人物達の視線という視線が一気に集まる。心臓が高鳴り自然に背筋が伸びた。

『G, Guten Tag, mein name ist Grün. ……Freut mich!
(は、はじめまして、俺の名前はグリューネっていいます。……どうぞよろしく!)』

 大衆ににこりと笑顔で微笑みかけた。彼らは首をかしげ、やがてクスクスと笑い出して何処かへ行ってしまった。

――思い出した。ここではドイツ語なんて通用しないんだった! あああもう初日からなんて事を! 穴があったら入りたい!!

 何故ならここは英国。英語でしか物事は伝わらない。しかし神という物は残酷だった。――英語をほとんど知らない人間を英国に置くだなんて!
 馬車の中で必死に読んだ最低限の英語の会話文が書いてある薄っぺらい本を見るが、全くもって読めない。英語としての発音が理解できずに涙がこぼれそうなくらいだ。
『……にっせ? ……とぅ、めえと……よう……?』
 何となく「Nice to meet you」と書かれた文章を声に出す。周りにいた大衆には吹き出しながら走り去っていくものも居た。
『あの……俺、転入生で……』
 伝わる筈もないドイツ語で大衆に呼びかけるが、やはり大衆はドイツ語を理解はしてくれない。何も言わない大衆に痺れを切らせた俺は重たい荷物を胸の前に抱え、まっすぐ進んだ。視界は少し足元が見えないが前は見えるので問題はないだろう。
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