第30章 映る
「それもそうね」
ペトラの提案を受け入れて、マヤはさらにゆっくりと食事をしようと決めた。
「エルドさん、リヴァイ兵長って噂どおりの鬼のような強さなの?」
「グンタさん、壁外調査の話をして?」
エルドとグンタは早速、ミーハーな駐屯兵の女子に囲まれている。
オルオは男子に人気だ。
「オルオさん、巨人の討伐ってやっぱチームプレー?」
「でもリヴァイ兵長は一人で何匹もやっつけるって聞いたけど」
「オルオさん、もったいぶってないで教えてくれよ」
エルドとグンタの周りには女子が多いが、自分のところには見事に野郎だけ。それもベンの同期すなわち自分とも同期のはずなのに、なぜか “さん付け”。
「……教えてやるのはいいけどよ、同い年じゃねぇか。オルオでいいって」
「同期なのはわかってるけど、なんか貫禄がすごくてさ…」
それは主に皺だらけの顔の貫禄の意味であるのに、オルオは都合よく解釈した。
「そうか! そりゃまぁ俺はニ年目でリヴァイ班に抜擢されるエリートだからよ? 自然と貫禄がにじみ出るのは仕方がねぇけどな」
とまぁこんな調子ですっかり機嫌を良くしているオルオは、ぺらぺらとリヴァイ兵長の無敵の強さと壁外調査の話を語り始めた。
タゾロのところには白樺家具職人のニッカ信者が、ギータのところには意外なことに先輩女兵士が集まってきている。どうやら巨体なのに子犬のような目をしたそばかすだらけのギータは、年上の女の庇護欲をかきたてるらしい。
そしてペトラも何人もの駐屯兵に別のテーブルに連れていかれた。もちろん自己紹介のときからペトラに目をつけているマイケルもいる。
「ペトラ、リヴァイ班だなんてすごいね。可愛いのに強いなんて最高だよ!」
「そう…?」
「そうだよ、なぁ?」
マイケルが他の取り巻きに話を振ると、皆が口々にペトラを絶賛し始めた。
「あぁ、やわらかそうな髪に大きな瞳。こんなに可愛いのに、壁外では戦いの女神になるんだろ?」
「そのギャップがたまらないよな!」
「オレ、こんなにドキドキするの初めてかも」
「やっぱそこらの女とは違うって、リヴァイ班なんだし?」
あまりの賛辞の嵐に、さすがのペトラも引き気味だ。
「……そうかな? そんなに…?」
「そうだよ、間違いないって。なぁ、俺たちにペトラのことを色々と教えてくれよ」