第30章 映る
……教えてと言われても、何を話せばいいのよ…。
戸惑っているペトラに、マイケルは優しい声を出す。
「ペトラのことを知りたいからなんでもいいんだ。でも急にそんなことを言われても困るよね。そうだな…、調整日は何をしているんだい?」
こんな風に具体的に質問されたら、答えやすい。
「近くの街にショッピングに行くことが多いわ。カフェもあって…」
マイケルの誘導でペトラはリラックスして答え始めた。
調査兵の皆が、多くの駐屯兵たちに囲まれてさまざまな質問攻めにあっているころ、マヤは目の前の皿だけを見ていた。
……このまま独り静かに食事ができればいいんだけど…。
マヤの思いもむなしく、マヤに近づきたい駐屯兵の男どもは放っておいてはくれない。
一人、また一人と近づいてきて、気づけば七、八人に囲まれてしまった。
「すごく綺麗な髪だね」
最初は声をかけずに眺めていたが、一人が髪を褒めたのをきっかけに次々と誉めそやす。
「肌が綺麗だ」
「めっちゃ可愛い、ベンと同期なんだって? じゃあ俺のが二年上だわ」
「マヤ、俺だよジムニー。憶えてる?」
「リヴァイ班じゃなくてごめんって言ってたけど、オレはリヴァイ班じゃなくても君のことイイと思うぜ」
怒涛の声かけに、スプーンを持った手が空中で静止している。
誰に返事をしたらいいかもわからない。
とりあえずは訓練兵時代の同期だったジムニーだけは認識できる。
だからそっとスプーンを置くと、ジムニーの方を向いた。
「もちろん憶えてるわ、ジムニー。久しぶりね、元気だった?」
マヤに笑いかけられて、ジムニーは顔を赤くする。
「憶えててくれたんだ」
「おい! お前だけずるいぞ!」
マヤに話しかけられたくて、ジムニー以外の男どもが身を乗り出してくる。
「マヤ、オレはハンス。ベンとは同じ班なんだ」
「俺はローレンス、君より年上だけどどうかな?」
「俺は遠距離になっても全然OKだからさ!」
俺はオレは俺は…、多くの自己主張に囲まれてマヤは混乱して口をぱくぱくさせている。
「おいおいおいおい!」
そこへ救世主のようにベンがやってきた。
「マヤが困ってるじゃないか。いくらとびっきりの美人だからって、そうがっつくなよ!」