第30章 映る
マヤの隣はタゾロだ。
「俺はタゾロ。リヴァイ班じゃないが、白樺家具工房のニッカの友人だ」
「ニッカってあの…?」
ベンをはじめ駐屯兵たちが大きく目を見開いた。
どうやら白樺の椅子を作っているタゾロの知り合いは、ちょっとした有名人らしい。
「あぁ、あのニッカだ」
「家具職人のニッカといえば、王家に家具を献上したんじゃなかったっけ?」
「そうそう、俺もそれ聞いたことある」
「すげぇ!」
すげぇすげぇと駐屯兵たちが騒いでいるのを見て、マヤは隣のタゾロにささやいた。
「ニッカさん、有名なんですね。わかるわ、だって白樺で作った椅子は本当に綺麗で素敵だったもの。ねぇペトラ?」
「うん、最高だった!」
「マヤにもペトラにも気に入ってもらえて、俺も鼻が高いよ」
タゾロは故郷の名産の家具を後輩に褒めてもらって、得意そうだ。
そして調査兵の最後のギータの自己紹介が終わって、いよいよ乾杯だ。
といってもここは酒場ではない、駐屯兵団の食堂であるゆえ皆の手にあるのはただの水だ。
「親睦会のためにキャシーアンとボブソンが、腕によりをかけてごちそうを作ってくれた」
ベンがそう言った途端に駐屯兵がヤジを飛ばす。
「何言ってんだ! いつもの晩メシじゃねぇか!」
「あはは、ばれたか。そう、これは我がユトピア区駐屯兵団の誇る名コックの二人が作ったいつもの晩メシだ。いつ食べても美味い、毎日ごちそう、キャシーアンとボブソンに感謝だ!」
確かに貧乏で資金不足の調査兵団の、芋が主体のメニューよりもはるかに豪華だ。
「はるばる遠いこの地にやって来てくれた調査兵のみんなをもてなすのには、無論この素晴らしい食事だけで充分なのだが…」
ベンは得意そうに胸を張る。
「マヤたちが食いたいって言うから、俺が特別にアレッポラの店にかけあってラム肉料理を用意したぜ!」
うぉぉぉぉ!と地鳴りのような野郎どもの歓声が上がり、その勢いのままベンは盛大に水の入ったグラスを掲げた。
「乾杯!!!」