第30章 映る
「明日は通常どおりに夜明けと同時に出発する。任務に響かねぇ程度にしとけよ」
リヴァイはなんの感情もないように指示を出すと、また本部に入ろうと背を向けた。
「親睦会って?」「ベンって誰だ?」
事情を知らないエルドとグンタがペトラに訊いている。
「マヤの訓練兵のときの同期で…」
ペトラの声を後ろに聞きながら、マヤはリヴァイを追いかけた。
「兵長…!」
振り向いたリヴァイの表情からは、何も読めない。
「兵長は親睦会は…?」
「俺はシムズと飲みに行くことになっている」
シムズというのは、ユトピア区の地区長を務める隊長だ。
「お知り合いですか?」
「別に知り合いでもなんでもねぇが、どうしてもとしつけぇからな…」
「そうですか…」
予想していたとはいえ、やはり親睦会にリヴァイがいないのはマヤとしては淋しい。
「あのベンという男…」
無表情のリヴァイだったが、声にはわずかに棘がある。
「随分と調子のいい野郎だが…。同期だそうだな」
「ええ。ベンが何か失礼なことを言いましたか?」
「いや…」
リヴァイはベンの何も問題のない態度を思い出す。
マヤとは訓練兵時代の同期だ、卒業以来の邂逅にこの胸は感激であふれている、おまけに連れの兵士はあのリヴァイ班だと聞いた、ぜひ有益な話を直接聞きたいし、南方領土とは遠く離れたユトピア区の駐屯兵の士気高揚のためにも仲間を集めて “親睦会” を開催したい…。
その物腰と流れるように話す口ぶりは、上の者に自身の要求を無理なく通すことに慣れているとリヴァイは感じた。
にこやかにベンを眺め、彼の言葉にうんうんと大きくうなずいているシムズ隊長は、まるで可愛い孫を愛でる祖父のようだ。