第30章 映る
ベンの申し出に何も返答しないリヴァイを見かねて、シムズが代わって懇願してくる始末。
「リヴァイ兵長…、わしからも頼む。巨人をほとんど見かけないような北のユトピアの兵士にとって南の最前線で活躍する調査兵との交流は、どんな講義や任務よりも優れた教材になるに違いない。また調査兵にとっても、ユトピアの兵士と顔見知りになることはマイナスにはならないはず」
シムズ隊長の援護射撃に気を良くして、ベンはさらに立て板に水状態に。
「隊長もこう言ってることですし、ほんとリヴァイ兵長、駐屯兵団きってのお願いです。なぁに大丈夫です! 場所はここの食堂、集める兵士は至極まじめなやつばかり。何ひとつ精鋭の調査兵の任務の妨げにはならないとお約束しますので!」
「うむ、食堂か…、それは健全でよろしい。さすがベンだ。よし、わしから食堂の開放は手筈を整えておこう」
リヴァイの意向は全く関係なく、ベンとシムズでどんどん親睦会の話が進む。
……チッ、どことなく胡散臭いが…。
リヴァイは本能的に感じていた。ベンの話す “親睦会の目的” が純粋にリヴァイ班から巨人討伐の武勇伝を聞きたいだとか士気の高揚とは違うのではないかと。
実際のところベン主催の親睦会の真の目的は男女の出逢い、ペトラの言葉を借りれば “お見合いパーティー” なのだから、リヴァイの直感は合っている。
“俺の勘” はいつも正しいのだ。
……だが、あいつらにも多少の息抜きは必要かもしれねぇな…。
リヴァイは可愛い部下たちを気遣う。
全周遠征訓練は一見すると、ただ慢性的に馬を走らせているだけのようにも思えるが、日の出から日の入りまでの連日の騎乗は心身ともに疲労するものであるのだ。
……まぁいいだろう。
リヴァイは腹を決めて、ベンに返事をした。
「わかった。親睦会に参加しよう。何時に食堂に行けばいい?」
「いや、リヴァイ兵長は来なくて大丈夫です」
「……は?」
せっかく参加を表明したのに、いきなり来るなと言われて気分が悪い。
リヴァイの声色に気づいても、ベンは全然動じていない。
「変な意味じゃないですって。兵長のご活躍はユトピアにも轟いてます。とにかくすごい、恐ろしいほどに強いとめちゃめちゃ有名だもんで、兵長を目の前にしたらみんな緊張して食事がのどを通らないし、通夜みたいになっちまいます!」
