第30章 映る
マヤの言葉をタゾロが引き受けた。
「このあたりは牧羊が盛んだ。肉だけではない、乳も絶品だし、革も毛も使わないところはないからな」
……ヤギミルクだけでなく、羊のミルクもあるのね…。
マヤは声には出さなかったが、ヤギの乳を使った紅茶専門店 “カサブランカ” のスコーンを思い出して静かにひとり微笑んだ。
「羊か…」
「美味しいんだったら、食べてみたい!」
オルオとペトラの反応を見て、ベンはある考えが浮かんだようだ。
「食べてもらいたいのはやまやまだが、食堂では出ない。だが…、ちょっくら走ってテイクアウトしてこよう。あまり多くは用意できないかもしれないが、味見程度はできると思う」
「ほんと? やったぁ!」
「楽しみだな!」
手放しで喜んでいるペトラとオルオ。そんな二人を見ていると、マヤも嬉しくなる。
「ベン、ありがとう」
「おぅ、任せとけ! じゃあ、あとで食堂でな!」
馴染みの店に肉料理を調達しに、ベンは急いで行ってしまった。
残されたマヤたちは。
「タゾロさん、聞いてのとおり、食堂で親睦会があるんです」
「親睦会?」
「はい。駐屯兵と調査兵で食事をしながら親睦を深めようって。私とベンが訓練兵時代の同期で、さっき偶然に会ってから話がぽんぽんと進んで」
「へぇ…。兵長もOK出しているみたいだし、いいんじゃないか?」
「タゾロさんとギータも出てくれますか?」
「俺たちもか?」
「……だと思いますけど。ベンは兵長抜きでと言っていたから」
「そうか。久しぶりにラム肉も食べたいし、ギータ、参加するぞ」
「了解っす!」
タゾロの弟分のようになっているギータは良い返事をしている。
「よし、30分後に食堂なら急いで椅子を見に行きたいが…」
タゾロは困った顔をした。
今は、駐屯兵団本部から出てくるリヴァイの指示を仰ぐのが最優先事項だからだ。
「兵長はまだ中か?」
同期と会っていたエルドとグンタが戻ってきた。
「お疲れ様です。……もう出てくるとは思うけど」
ペトラが答えてまもなく、リヴァイが出てきた。
「ベンとやらに聞いたとは思うが、このあと駐屯兵団の食堂で親睦会がある。なかなかねぇ機会だから、大いに親睦を深めるがいい」
「「「了解です!」」」