第30章 映る
そう言って悪戯っぽく笑うペトラには意地悪な気持ちなど全くないことが、マヤには伝わった。
だからマヤも微笑み返す。
「もう、ペトラったら」
「でも私だって見つけるんだから、運命の相手!」
「そう簡単に見つかるもんじゃねぇだろ…」
鼻息を荒くして宣言したペトラに、ぼそっとした声でオルオがつぶやく。
「見つかるわよ!」
「見つからねぇって」
「なんでよ!」
「お前みたいなじゃじゃ馬、巨人もろくろくいねぇユトピアの駐屯兵には重荷だろ」
「何よそれ。ユトピア区の周りに巨人が少ないのは関係ないでしょ!」
「調査兵団がユトピアから壁外調査に出たことはねぇんだから、駐屯兵が援護することもねぇんだろ? ってことは巨人を見たことないやつもいるんじゃねぇか? そんなやつらが巨人を倒しまくってる女なんか手に負えねぇって!」
「なんですって!」
ペトラは真っ向からオルオに否定されて頭に来ているし、オルオはオルオで、ただペトラに他の男が寄りついてほしくない一心でつぶやいた言葉からどんどん気持ちがたかぶって、いつしか怒鳴り声になってしまっている。
「二人とも落ち着いて。ただの親睦会なんだから。オルオもさっき言ってたじゃない、普通にごはんを食べるんだって」
マヤの必死の仲裁に、ヒートアップしていた二人も冷静さを取り戻した。
「あ、あぁ…。そうだったな」
「そうだね、まずは普通にごはんだね」
そうこうしているうちに通りの角を曲がってきたタゾロとギータが現れた。駐屯兵団本部の建物の前でマヤたち三人が立っているのを見つけると、にこやかに駆け寄ってくる。
「お疲れ様です。どうでした?」
「お疲れ。久しぶりだったからね、話も弾んで楽しかったよ」
「そうですか、それは良かったですね。ところで、なんのお店なんですか?」
「椅子を売っているんだ」
「「「椅子?」」」
マヤとタゾロの会話を黙って聞いていたペトラとオルオも、声をそろえて訊き返す。
「あぁ。白樺の木で作った椅子だ。俺の村は白樺の林に囲まれているから」
クロルバ区にもカラネス区にもあまり馴染みのない北の樹木、白樺。
「「「シラカバ…?」」」
三人が想像することができずにいると、ギータが言い添える。
「白い幹の木っす」