第30章 映る
「俺とマヤの…?」
リヴァイの片眉がぴくりと上がる。
ひれ伏しているオルオには見えないが、それでもリヴァイの声のトーンで機嫌が悪いことだけは手に取るようにわかった。
「兵長とマヤの…、は、話し声っす!」
まさかちゅっちゅっとキスの音が聞こえたとは絶対に言えなくて、オルオは嘘をつく。
「………」
リヴァイの沈黙がさらに恐ろしくて、焦ったオルオはべらべらと情報を追加した。
「家がどうとかペトラとか、マリウスの兄貴の話とか」
全部がはっきりと聞こえた訳ではないが、ところどころ耳に入ってきた単語。とにかくそれらを繋げてごまかすことができれば。
「……まぁいいだろう。早く寝ろ」
「了解です!」
思いのほかあっさりと解放された。
オルオは “助かった!” とばかりに飛び跳ねて、そのまま消えた。
「……やれやれ」
リヴァイはまた、ひとり虫の声に耳を傾ける時間に戻った。
「……マヤ、大丈夫?」
翌日の夕刻、ユトピア区でペトラが心配してきた。
「うん、大丈夫よ。どうして?」
「なんか今日一日ずっと、眠そうにしてる気がして」
「そう? そんなことないけど…」
マヤは驚いた。自分では眠いと意識しておらず、寝不足な感じもないつもりだ。
昨夜は確かにリヴァイ兵長と一緒にいたので、その分寝ていないといえば寝ていないのだが、任務に異常をきたすほどの状態ではないはずだ… と思っていた。
「マヤが平気ならいいんだ。それにマヤより…」
ペトラはすぐ後ろを歩いているオルオをちらりと見てから。
「オルオの方が眠そうなのは間違いないし」
まるでペトラの言葉が聞こえたかのように、ふわ~と大きなあくびをするオルオ。
「オルオ、大丈夫?」
今度はマヤがオルオの心配をする。
「うん? あぁ、ちょっと昨日眠れなくてよ…」
「そう…」
立ち止まってオルオの方を振り返って、顔を曇らせる。
マヤが立ち止まったので仕方なくペトラも振り返った。
「そんな心配することないよ。どうせ寝ぼけて舌でも噛んだんだって!」
「……うるせぇな…」
リヴァイに解放してもらったあとギンギンに頭が冴えてしまって結局一睡もできなかったオルオは、いつもどおりにペトラに言い返すことができない。