ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第14章 消えない傷
《アスランside》
部屋を出た僕たちはディノの部屋へ向かっていた。
「……」
「どうした?ユウコも少し様子がおかしいような気がしたが」
「…ねえ、ジョセフ」
「なんだ?」
「大人にはいつなれるのかな?」
「…大人?」
「放っておいたらある日勝手になっちゃうものなの?」
「どういう意味だ?」
「…僕たちは、大人になったら自由になれる?」
「悪い…その答えは、わからない」
「…ごめん、ジョセフ…困らせてるのはわかってるんだ…」
「いや…お前は、早く大人になりたいのか?」
「なりたくない!…なりたくないよ…僕たちにひどいことをたくさんしてきた大人に僕もなってしまったらって思うとすごくこわい…でも、大人になれば体が大きくなるでしょ?そしたらユウコに何かあった時に守ってあげられるから…」
夢の中の自分を思い出して、今はまだ小さな手を見つめる。どうして僕はジョセフにこんな話をしているんだろう。今いちばん近くにいる“僕たちにひどいことをしない大人”だからかな…。雰囲気は全然違うけど、時々ヒューゴと話しているような感覚になる。
「ッ…まったく…お前というヤツは」
「…ねぇ、ジョセフは大人になってよかったって思う?」
僕がそう聞くと、ジョセフは立ち止まった。
「……」
ジョセフが僕の目を見る。
「俺は…お前と話をする時、なるべく嘘を吐きたくない。お前にはどうせ全てを見透かされてしまうだろうからな。だからその質問には答えない」
「……え?」
「ただ俺はお前たちに出会ってから、忠誠と正義についてその意味や位置関係をよく考えるようになった、とだけ言っておこう。……少し難しい言葉で話した意図を理解してくれ。これは大人のエゴだ」
僕は今の言葉を深く考えようとして、やめた。
難しい言葉で話した意図…、それはきっと僕に言葉の意味をわからないでいてほしいということだと思った。
「うん…でも大丈夫だよ?僕はジョセフが思ってるほど頭が良くないもん」
「ふっ、…お前には敵わない」
そうこうしているうちにディノの部屋の前に着いた。
ジョセフが部屋のベルを鳴らす。
ガチャ
「…あぁ、待っていたよ。入りなさい」
ジョセフを見ると、すっかりとかたい表情に戻っていて目も合わせずに背を向けて去っていった。