ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第14章 消えない傷
嫌だ…怖い…どうしてクリスは私にひどいことをするの?頭は混乱するばかり。今すぐ逃げてしまいたい…でもリードを握る手がそれから離れることはない。早く…というクリスのブルーの瞳は、色味の通りとても冷たかった。
「…聞こえないのかよ、早く」
私は震える体を起こして、クリスの膝に両手をついた。
『お、膝に……乗ってもいいですか…?』
「ふはっ!…いいよ?」
クリスの膝にゆっくり跨ると、私の顔をまじまじと見た。
「へえ、こっちからはこんなふうに見えるんだ。…ところで、今はちゃんと出来たのにさっき普通にソファに座ってたのはどうして?」
『…っ』
「…こうするようパパに教えられたんだろ?…お前、実は悪い子なの?」
『ご…めんなさ…い』
「謝るってことは意図的にやらなかったわけだ。で、なんで?
……アッシュがいたからとか?」
私の表情の変化を見逃さなかったクリスは、目を丸くして乾いた笑い声をあげた。
「まじかよ、こうしてるとこアッシュに見られたくなかったんだ?」
自分でも分からない。パパの膝の上にはアスランの前でも乗ることはあるけど、他の人のと考えるとアスランの前では何故か嫌だった。私…どうして見られたくなかったんだろう。
「へぇ…じゃあアッシュは、ユウコが色んな男の膝に淫らに跨るいやらしいメスだって知らないんだね!いつからか知らないけど、アッシュの前では純粋で穢れを知らない子のフリしてたんだ?」
するとクリスはハッとしたようにこう言った。
「…えっ…まさかお前、ペットのくせにアッシュに特別な感情抱いてたりしないよね?」
『……っ』
「……嘘だろ?…アッシュのこと好きなの?」
私はどんな表情をしてるんだろう、クリスは馬鹿にしたように大声で笑った。
「あはは!じゃあ、あんなふうに擦り寄ったり自分からリードを手渡したのも…アッシュが好きだから…?はは!面白っ!ペットのくせに!!」
クリスが何度も繰り返す“ペットのくせに”というワードに心がえぐられるような気持ちになった。
『……じゃ、ないもん…』
「あははは!…えっ、なにっ?」
『…ペットなんかじゃないもん!』
アスランはそう言ってくれる。
“ユウコはペットなんかじゃないよ”
私がそう言うと、クリスはジッと私の目を至近距離で見つめて声のトーンを落とした。