ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第14章 消えない傷
「よく来てくれたね、ムッシュウ・ゴルツィネ」
「Mr.ディック、時間を作っていただけて助かりましたよ」
「おや…?」
『…あっ』
部屋の中にいたのは、前にシャワーを浴びた帰りに会った男の人だった。
「私を覚えていてくれたのかい?これは嬉しいな」
「失礼、私のペットとどこかで?」
「先週、クラブ・コッドの前でね。ランクがあまりに高い子たちで印象深く、私も覚えていたよ。ブロンドの子には近々会えるだろうと思っていたがまさかこの子にも会えるとは…」
「それはそれは…。ほら、ご挨拶を」
私はパパに教えられたように、近づいて両手で男の人の右手を握り顔を見上げた。
『こ、こんにちはMr.ディック。ユウコ・テイラーです』
「ユウコというのか、可愛いご挨拶をありがとう。立ち話もなんだ、掛けなさい…それにしてもメスとは珍しいこともあるものだ」
「ブロンドのはアッシュと言うのですが、それとペアで保護しましてね」
「ペアで、なるほど…彼女は東洋系のようだし、兄弟ではなさそうだね?」
「ええ。…さぁユウコ、教えた通りに」
隣に座ったパパに小声で促され、次にすることを思い出す。私は、Mr.ディックの足元に座り目線の高さの膝に手を置く。
「なんだね?」
『…あっ、あのお膝に乗っても、良いですか?』
「これは驚いた…もちろん大歓迎だよ、おいで」
恐る恐る膝に跨ると、Mr.ディックはグッと腰を寄せ頭を撫でてきた。…なんだか少し怖い。私はビクビクと震えてしまう。
「…申し訳ない、まだ飼い始めたばかりで躾が追いついていないのですよ。こうやって連れ歩くのも今日が初めてで」
「いや、なんて可愛い子猫だ…私はすっかり心を掴まれてしまったよ。ユウコ、この服は脱いでくれないのかい?」
胸元についた飾りのリボンをクルクルと弄られる。怖いけど、絶対に逃げられない。
…こんな時に頭に浮かぶのはやっぱりアスランで、頭の中では大丈夫、大丈夫と2人で繰り返した日を思い出していた。