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星条旗のショアライン

第23章 カート・ヴォーン(CABIN/R15)



カートに従兄弟はいない。そんな当たり前のことを誰も彼に指摘しないでいた。それは僕も同じだった。そんな些細な綻びがこんな大惨事になるなんて誰が想像出来ただろう。どうやって避けられただろう。内臓を掻き出されながら考えたところで結局は『カートに従兄弟はいない』ことを誰も指摘しなかったせいなのだ。

(2)

旅行と称してカートの従兄弟が所有しているキャビンを訪れた僕達は星も浮かばない初日の夜にゲームをする。『告白か挑戦か』という単純な暇つぶしゲームだ。アメリカに留学してきたばかりの頃は友人が一人もいなかったけれど、二年目の夏にカートと知り合って今日に至る。最高にクールな遊びを色々教えて貰った中でもこのゲームはなかなか独特なものだった。『告白』を選べば参加者に愛の告白をしたり自らの過去を告白し、『挑戦』を選べば参加者から命令された無茶振りを何がなんでも完遂しないといけない。罰ゲームは野球挙。要するに脱衣だ。
大概の場合の参加者は脱衣を躊躇わないけれど僕にはとにかく無理だった。お国柄と言おうか、人前で肌を晒すなんて羞恥心が働き過ぎた。カートはそんな僕を見てニヤニヤとだらしがない笑みを噛んだ後に床に押し倒して無理やり脱がせる。そうすることが溜飲を下げてしまうみたいで、今まで散々彼の手で裸にされてきた。しかしそこに変な意味はなかった。……これまでは。
地下室でデイナが古い日記を見付けたあとの事だ。リビングに戻って各々寛いでいると、横でビールを煽っていたカートが急に身動きを止めた。僕は悪趣味な音楽に合わせてジュールズが激しくダンスしている様を暇潰しに眺めていただけだったので、カートの異変にはすぐに気付いた。肩に手を置くと彼はとろんとした目で振り返った。
「カート、どうした?」
「……いや、うん。いや……」
「具合悪い? 部屋戻る?」
「大丈夫だ……大丈夫」
そうは言いつつも目は完全に据わっている。顔色はむしろ血色良く健康的に酔っているものの、どうにも様子が変だ。普段よりも覇気がない。なによりこの目。意思を感じない仄暗さに思わず背筋が泡立った。束の間、一人掛けのカウチに身を沈ませていたマーティが僕達の間を流れる異様な雰囲気を悟って近付いてきてくれた。葉っぱをキメていたが案外冷静な人だったらしい。その提案は彼なりの気遣いだったに違いない。

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