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星条旗のショアライン

第16章 【長編】2019年 Xmas企画③(MCU/蛛and医)



「あ、あの! 待って!」
「!」
旋風を振り切り、地下鉄へ向けて脚を漕ぎ出した矢先に後ろ髪を引かれる。若く溌剌とした声の持ち主へ当たりを付けて振り返れば、先程の少年が店から飛び出してきたところだった。
まるでブレーキを掛けないままカーブに突入した車のような勢いだ。体幹が遠心力に負けて滑り転んでしまえば目も当てられなかったが、そこは若さゆえか立て直すのも早かった。少年は俺の目の前でスニーカーの爪先を揃えると弾む息を落ち着けるついでに身形を整える。ともすれば紙袋を抱えて手が塞がっている俺の肩を逃がさないとばかりに掴んだ。痩身に反して力強い。
「な、なにか用事かな、少年」
「えっと、そう! 用事! あるよ、あります!」
「歩きながらで良いか?」
熱意に圧倒されて促音混じりに返事をしながら公共機関の方角へちろりと視線を跳ねさせて提案するも、赤く霜焼けた頬を白く立ち上る呼気で覆い隠した少年はたちまち顔を横に振った。「長話する気は無いんだ、ただ聞いて欲しくて」と続け、俺が「何を」と聞き返す前にそばかす顔が鼻先まで迫る。薄い唇が矢継ぎ早に告げた。
「さっきは格好悪いところ見せちゃったけど普段はもう少しだけ、いやかなり……良い子なんだ! 歩きスマホはしてないし、メイおばさんとのクリスマスディナーでサプライズするデザートだって用意しているし、おつかいもしてるし、ほんと、何時もならヒーローに注意される格好悪い男じゃないんだって……」
知って欲しくて、それだけ……と尻すぼみに消えていく声は綺麗な歯並びの中で咀嚼されて飲み込まれていく。要領を得るに名誉を挽回したいが為に引き留めたということか。
乱れたマフラーの隙間から覗く首までをも真っ赤に染め上げながら「僕ってダサいよね……」と項垂れる姿にきょとりと瞳を転がした。まるで懐っこい大型犬が尻尾を内巻きにして悄げているようにみえてしまって、一種の面映ゆさを感じる。間違いなくこの居心地の悪さは罪悪感だった。
(……やってしまった)
頭を抱える以外の行動が最適ならば是非に知りたいものだ。彼は俺のお節介に付き合わされたに過ぎなかった。いっときの独りよがりな正義感が日常のたった数秒を詳らかにしたせいで彼のプライドを深く傷付けてしまったのだろう。スマホを覗いていたのも、もしかしたらおつかいの内容をメールか何かで再確認していただけかもしれないのに。

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