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星条旗のショアライン

第16章 【長編】2019年 Xmas企画③(MCU/蛛and医)



ガラクタと化した貴重品をバッグに仕舞う為に半身を翻したドクターは、そこでようやく周囲の視線を集めていた事に気が付く。ソファ席から動画や写真を撮る無遠慮な電子音が響き通しだったのだが、寧ろ遅すぎたくらいだろう。
民間人はSNS上における承認欲求を満たす為に我々を利用するだけだ。だから基本的には放っておくものの、後々になって『スティーブと俺の仲へ割って入る高飛車で自己中心的な壮年男性』という題材の二次創作が巷で爆発的に流行していた事を知った時には考えを改めなければならないと後悔した。どこにアーティストが潜んでいるか分からない。
「なんだ、あの連中は」
「我々が……いや、俺が騒ぎ過ぎました」
「流石はヒーローだな」
「っ……」
バッグのフラップを乱暴に閉めると同時に『ヒーロー』と言う時だけ語気を強調されて喉が鳴る。とことん虐め抜くつもりだろうか。俺が要求に対して首肯しない限りは延々と。
初対面の民間人から物事を強要されることはまま有る。無理難題を振られる事もタスクをこなす事もまた平和の象徴たるヒーローの務めであると思うからこそ、出来うる範囲である内は応えてきた。しかしこうも強引に感情を揺さぶって誘惑の手綱を叩き付けてくる者には出会した事がない。
腕時計が床に落ちて俺が拾い上げるところまでは偶然だったかもしれないが、機転を利かせてわざと握らせた上で伸るか反るかの博打を仕掛けるとは背筋が凍る次元の行動力だ。
(サディストめ……)
民間人へ冷ややかな一瞥をくれたドクターはおもむろに立ち上がると、椅子の背もたれへ掛けていた上着の内ポケットからスチール製のケースを取り出した。そこから慣れた手付きで葉書よりも小さいサイズの紙片を抜き、洗練された所作で差し出してくる。名刺のようだ。名刺を挟む指に隠れた部分には病院名が記されており彼の名も載っている。『スティーヴン・ストレンジ』。それが彼のフルネームらしい。
「名刺だ。都合がつかないならいつでも構わないが必ず来い。すっぽかすなよ、自分の身体を治したいならな」
「……治す?」
「言ってなかったか、僕は外科医だ。凄腕のな。お前の身体から合金を切り出してやれる世界唯一の外科医だ」
「ドクターって……医師の方か……!」
「なんだと? 初めに病院を紹介しただろう。何を聞いていた」

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