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星条旗のショアライン

第16章 【長編】2019年 Xmas企画③(MCU/蛛and医)



となればテーブル席に限る。空間の中央ともあって人の往来が多いが、空調や薪ストーブの暖かい空気が伝わり易く、ハードカバーの書籍が出版社ごとに並ぶ本棚が一番近い。更に心惹かれるのは各社発行の新聞類が整頓された状態で詰まっているマガジンラックだ。席ごと標準的に設置している点が何よりも有難い。だからあの男性もテーブル席を選んだに違いなかった。
(……!)
シングル同士という妙な親近感が湧いていた事もあって男性を不躾に注視していると、ちょうど顔を上げた彼と示し合わせたかのように目が合ってしまった。動揺する俺に比べて少しも臆さない男性は絡まる視線を外すこと無く新聞を一度振ってシワを伸ばした後、カップを手繰り寄せてひとくち啜る。赤の他人である以上は幾ら目が合おうが直ぐに逸らしそうなものだが、眦の鋭いアクアブルーの瞳は真っ直ぐ俺を見据えて離さない。居心地の悪さを感じつつも俯き気味に脇を通って一際奥のテーブル席を目指した。
(……ん?)
その時、シャンと金属が滑り落ちる音を聴き拾ってつい足を止める。軽く首を振るわせて周囲の床を窺うと、男性が座る椅子の真横に手入れの行き届いた腕時計が落ちていた。黒の本革ベルトが通るシルバーカラーの長方形ムーブメントに真っ赤な文字盤のデザインは一目見て洒落ていると分かる。男性は自身の落とし物に気付いていないのか、とつぜん立ち止まった俺を訝しんだ。
「この腕時計、貴方のものでしょうか」
「……」
これといった返事をしないものの恐らく彼の物に間違いないだろう。拾う素振りも関心を寄せない理由もまるで分からなかったが、一切の発展を望めないのだから仕方が無い。取り敢えず手近なテーブルへトレイを置くと、上着のポケットからハンカチを引っ張り出し、腕時計に被せてから拾った。緩衝材は必要だ。力を込め過ぎると地球上に存在する程度の金属では俺の中を巣食う二種類の金属と力が均衡せずに破壊されてしまうからだ。スマホやパソコンなどの電子機器は初めから脆いものとして理解しているからこそ扱いに楽だったりする。困難なのは寧ろこういった貴金属類だった。

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