第2章 ダンスのお時間です
「お嬢様、シトラスティーをお持ち致しました」
ダンスの先生がホールを出るのを、半分だけあいた扉の向こうで頭を下げて見送った後、ハイセは涼しげにそう、あたしに冷えたアイスティーを渡してきた。
「…………美味しい」
ちょうど喉が渇いたこのタイミングで渡されたゆづ入りの冷たいシトラスティーは、驚くくらいに喉元に心地よく浸透していく。
「はい。お嬢様の好みならご自身よりも理解しておりますゆえ」
「…………」
すごく悔しいけど。
ほんとにこのシトラスティーは半端なく美味しい。
反論する言葉が、見当たらない。
「これで来月の社交界はバッチリですね」
「……………」
ずずず、と無言のままアイスティーを飲み干せば。
「お嬢様」
と、控えめなハイセの低いテノールが、あたしから冷えたグラスを奪いとった。
「はしたないのでお止めください」
わかってる。
わかってる、けど。
考えたくもないことをわざとそう、言葉に出すこの性悪執事に、少しくらいあてつけたっていいじゃないか。
それくらいの反抗なら許してもらってもバチはあたらないはずだ。
「ハイセはいいわね、何でも出来て」
落第点なんてたぶん取り方すらしらないだろう。
「そうですね」
「…………」