第1章 日常からの、非日常
〜安室side〜
運転しながら、助手席に座る女性をチラリと見る。
俯く彼女は可愛らしい顔立ちをしており、純粋そうな雰囲気からは悪意なんて微塵も感じられない。
ポアロでふんわりと笑いかけてきた彼女は僕に興味があるようだったが、恋愛対象というよりは単純な興味だけのようだった。
どこかで会ったか?
安室ではなく、降谷の知り合いか?
そんなことを考えていると彼女とコナンくんの話が耳に入り、咄嗟に取り繕う彼女を不審に思って後をつけたのだった。
『あ、…あの、バイト、良かったんですか…?』
俯いていた彼女が、不意に僕の方を見た。
安「バイトを終えて帰っている途中だったので、問題ないですよ。」
『そうですか…』
どこかホッとした顔の彼女は、今度は窓の外を眺めることにしたようだ。
安「何故僕がバイトだと?」
『……な、なんとなく…すみません…!』
ギギギ…と音のしそうな動きでこちらを見て、謝罪する咲さん。
やっぱり少し腑に落ちない。
それに。
安「あまり無茶はしないでください。」
『え…?』
安「状況も状況でしたが、もっと自分の体も大切にしてくださいね。」
困ったように笑って見せると、彼女は小さな声で「すみません」と返事をした。
力に訴える男の前に出るには、彼女は華奢すぎる。
彼女の背中には痣ができているはず。
手当てを、とも思ったが
会ったばかりの男に背中なんて見せたりしないだろう。
安「ちゃんと手当てしてくださいね。」
純粋に心配すると、彼女はまたこちらを見て笑顔を返した。
安「良かったらまた、ポアロに来てくださいませんか?
今日は何も召し上がっていなかったようなので…」
『あ、はい!是非伺いたいです。』
腑に落ちないことはあるけれど、とりあえず次の約束を取り付けて。
指定された場所に彼女を降ろすと、丁寧にお辞儀をされて笑顔で見送られた。
安「ふぅ…不思議な人だ…」