第6章 私の心の行く先は
「...なんか、その、すみません」
「いいや、大丈夫だよ。分かりにくいよね、仕方ない」
苦笑いではあったけれど、長船さんは優しく笑って許してくれた。その顔が、なんというか、安心したように見えたのは私の自惚れがそうさせた勘違いだと言うことにしておく。
「...ねえ」
「はい?」
「もしかして、君からの連絡が途絶えたのは...僕に恋人が出来たかもって気にかけてくれたからなのかな」
「え、ああ、まあ...そうですね」
「そっか」
普通に考えたらそうでしょ、いくらなんでも彼女さんとの時間を割いてまで私に付き合ってくれなくてもいいのだし。...まあ本当に彼女さんが出来たなら、だけれども。
「君ならいつでも大歓迎だよ」
「ぶふ」
危うくアイスティーを吹きかけた。
だから本当に何を言っているんだ、見上げた長船さんはさっきまでの雰囲気からいつもの調子を取り戻したのか穏やかに微笑んでいた。
...その笑顔を、まだ一番近くで見ていることが許されているのだとこの時ふと実感してしまった。私は、これからどうしたらいいだろう。
もう蓋なんて有って無いようなものだ、彼の一挙一動でこんなにも自分のペースを乱されているのだから。
今日一日...もう半日も無いが、自分の気持ちに素直になってみようと思う。夜の居酒屋では知り得なかった長船さんにきちんと向き合おう。
その時私の心がどこへ行くか分からないけれど...逃げずに素直に従ってもいいのかも知れない。
”速報 長船さんの隣にいた女の子は男の子でした”
報告がてら先輩に送ったメッセージのおかげで、しまい込んでいた私のスマートホンに先輩からの通知がえげつなくなっていて心底申し訳なかった。お土産奮発しよう。