第6章 私の心の行く先は
もういっその事早く殺して欲しかった。
いやはや物騒な言い方だがだいたい合っている、物理的にではなく精神的にという意味でだ。
平日の水族館は程よく空いており、ゆっくりと見て回るにはとても有難い状況だった。とはいえ合流はお昼手前、お腹も空いていた事からまずは併設されていたレストランで腹ごしらえをしようという事になったのだ。
そこで食事をし、お茶を飲みながら一息付いている中私は自らの心を奮い立たせる。
正直今に至るまで生きた心地などしなかったし、なんなら食事の味も長船さんと何を話したかも微妙に覚えていないくらいだ。
だけどはっきりしてもらえないことには私は今日一日を悶々と過ごすことになる。せっかく長船さんが休みを取ってくれたのだ。そして私も最後までこんなんでは楽しめないし流石に辛すぎる。 どちらに転ぶにせよはっきりした方が良いに越したことはない。
「そういえば、こないだ街で長船さんを見かけましたよ」
「え?そうなのかい?話しかけてくれて良かったのに」
「え、だって彼女さんらしき方と一緒だったんで遠慮したんですよ」
いつの間に出来たんですか?みずくさい!などと茶化し気味で伝えた。声は震えていなかったか、上手く笑えていただろうか、必死に動揺を隠してはいたが繕えていたかなんか分からない。
あああついに切り出してしまったと思いながら長船さんを見ると
「...彼女...?」
「えっ」
「僕、最近彼女は出来ていないけど...」
「えっ!」
コーヒーカップを置いた長船さんは誤魔化すとか動揺とかではなく心底それがなんの事なのか分からない様子だった。
いやいやいや待って欲しい、だってガッツリ腕組んで歩いてるの見たし...見たし...あれは確かに長船さんだった。間違いないと思うのはなんでなのか聞かれたら、その、説明に凄く困ってしまうのだけど...。けれど彼が嘘をついているような雰囲気は一切ない。
「それ、本当に僕だったかい?」
ですよね
やっぱりそういう疑問になる。でも私も見間違いはしていない。今私の目の前にいる長船さんそのもので間違いないのだ。