第5章 君は知らない
連絡が来ない。
いや、いままでもそこまで頻繁にやり取りをしていた訳ではなく...お互いに気が向いたり暇な時になんでもない内容をポン、と送りあっていたのだけれど。最近彼女からの連絡が途絶え気味なような気がする。
最後に会ったのはいつだったかな、思わずあの子の姿がいじらしくて頼りなさげで頭を撫でてしまったあの日以来だ。
既読がついたまま動かないトーク画面を何度眺めても何も変わりはしないのは分かっている。だけど悲しいかな、あの子との繋がりはこの小さなメッセージアプリが無いと成り立たないのだ。
「はあ...」
スマートホンを雑に投げ置くと、そのままソファに横になる。寝てしまいたい訳では無いからちょっとだけね。
どうしてこんなにも気になるのだろう、今何をしているのかなとか体調を崩していないだろうかとか...次はいつ会えるのかな、とか。
あの子はどうやら自分自身の事にはだいぶ頓着が無いようだ。そのくせ、内面にしまい込んでいる仄暗いものの根深さが見え隠れする姿に僕はどうしようもない程に比護欲を掻き立てられてしまう。
きっと歯に衣着せない言動は無意識な防衛本能から来るのだろう。あの子をそこまでさせたものはなんだったのかな。
初めて会った時、無理やり飲まされて具合が悪い僕に水をくれて馬鹿にすることなくそばに付いていてくれた。
格好つかないと呟いた僕を励ましてくれた。
幸せを願った君が、同じように僕の幸せを願っていてくれた。
行き過ぎた「優しさ」は毒にもなるのだと叱ってくれた。
今まで親しい友達にも話す事がほとんどなかった過去の...右目の傷跡を、僕の人生を同情することも憐れむこともなくただ、格好良いと言ってくれた。
こんな事は初めてだった。
色々な子とお付き合いはしたものの、相手は必ず僕自身に妄想から来る理想を夢に見...違うとなるとこんな筈ではなかったと、こんな人だとは思わなかったと言って去って行く。
僕が何をしたと言うのだろう、外見とイメージだけで僕という人間を判断し勝手に作り上げて勝手に幻滅していくのはそっちだと言うのに。
あの子は違った、ただただ目の前にいる“僕自身“に真摯に向き合ってくれた。