第13章 Ti desidero.【ジョルノ】
ギィ、と小さく軋む音を立てる玄関扉を押し開ける。恐る恐るアジトの中を覗いてみると、室内は暗くしんとしている。
どうやら、まだ誰も見回りから戻っていないらしい。チヒロが一番乗りだ。
パチリと電灯のスイッチを入れる。
予想より早く帰ってしまったらしい彼女は、まさか呆けていて見回り損ねた場所が有りはしないかと不安に襲われた。
───が、それは一緒で吹き飛んだ。
「チヒロ」
咄嗟に振り返る。
背後から突然かけられた声に彼女の心臓は早鐘を打ったが、悲鳴を上げなかったのはさすが一端のギャングだと言っていい。
「ジョ…ッ、ジョルノ……」
「奇遇ですね。僕も早々に見回りが終わってしまって」
悩みの種の張本人は、そう言って爽やかに笑う。と同時に、当たり前のように距離を詰めてきた。
チヒロはじりじりと後退りする。
「な、何で電気をつけてなかったの?」
「そうですね…貴女を驚かそうと思って」
「なら、もう充分目的は達成できてるわ。私、すっごく驚いたもの」
「そうですか。それは良かった」
この空気を打破しようと適当な話を振ってみるが、貼りついたジョルノの笑みは揺るがない。
どころか、暗に待ち伏せされていた事が判明してしまった。
脳をフル回転させても次の一手が打ち出せないまま、とうとうチヒロの背中は壁に触れた。
「う、ぁ、ど、どうしてこんな事…」
「チヒロ」
彼女を追い詰めたジョルノは、再びその名を口にする。チヒロはもう彼の顔を見上げる事もできずに、真っ赤になって震えるばかり。
彼はそのまま、柔らかな肢体をかき抱いた。
「───…ッ!」
チヒロはぎゅっと目を瞑り、体を固くする。これまでにもう何度もハグされているが、その度にこうする事が彼女の精一杯の抵抗だった。
一方、抱きしめた相手の柔らかな髪に頬を埋め、暫くその滑らかさを堪能していたジョルノはおもむろに顔を上げる。